COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

何で今、風営法の改正が問題になっているの?いつ改正されるの?

【この記事のポイント】

(1)現行の風営法では、クラブを営業するには都道府県の公安委員会の許可が必要。

(2)許可を受けたとしても、深夜にクラブを営業することはできない。

(3)現行の風営法の規制が厳しすぎるとして、風営法の改正が検討されている。

(4)風営法の改正は、今のところ、2015年に実現する見込み。

 現行風営法下でのクラブの深夜営業は違法なの!?

たまに音楽関連のニュースなどで見かける「風営法改正」の話題。

この話題について、「そもそも何が問題になっているのだろう?」と思っている方や、 「風営法っていつ改正されるの?」と思っている方もいらっしゃると思います。

そこで、なぜ風営法の改正が問題になっているのかと、 今回の風営法改正に向けた大きな流れについてお伝えしたいと思います。

 

まず、ここでいう「クラブ」というのは、女性がお客さんの横について接客してくれるようなお店のことではなく、DJが音楽を流して、お客さんがそれを楽しみながら踊る形態のお店のことを言います。 クラブに行ったことがない音楽好きの皆さんには、音楽フェスに設けられているDJブース(例:『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』のDJブース)とかをイメージしていただくとわかりやすいのではないでしょうか。

 

現在、日本の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(略して「風営法」)*12条1項3号は、「ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食をさせる営業」(「3号営業」と呼ばれています)を風俗営業の1つとして位置づけて、都道府県の公安委員会の許可を得ないかぎり営業できないと定めています。

いわゆるクラブ営業は、この3号営業に該当するとされています。

ここで、ひとつ注意点なのですが、風営法は、お客さんが踊ること自体を制限しているものではありません。例えば、居酒屋とかで急にお客さんが踊りだしたとしても、それ自体が違法になるわけではないです。*2お店の経営者が、設備を設けてお客さんにダンスと飲食を楽しんでもらう営業をすることを規制しているのです。

 厳しい許可取得要件

3号営業の許可を得るためには、営業所の立地についての要件、営業所の客室の面積の要件といった様々な厳しい制限があります。

例えば、現行の3号営業を営むためには、客室1室の面積が66㎡以上あることが必要です。 66㎡というのは、坪で言ったら19.97 坪、畳で言ったら42.65 畳*3になります。

客室というのは、お客さんが入れるフロアのこと(バーカウンターの中とかは含まれないということ)です。

そもそも、この面積の要件をクリアしないと許可が得られないのです。 地価の高い都市部では、このハードルはなかなか厳しいものがあると思います。

 深夜営業の禁止

また、厳しい要件をクリアして許可を得られたとしても、深夜0時から日の出までは営業を行うことができません。

このため、日本で深夜0時以降にクラブ営業を行うことは、現行法上ではどうしても違法な営業となってしまうのです。 

 

このように深夜にクラブ営業を行うことは違法になってしまうのですが、1980年代にクラブというカルチャーが始まって以降、長期間にわたって、警察もクラブの深夜における営業を事実上、黙認してきました。このおかげ(?)もあってか、日本の1990年代においてクラブカルチャーは、大きく盛り上がりを見せ、日本の音楽シーンに様々な影響を及ぼしていきます。

クラブの違法営業についての摘発の増加  

ところが、2000年代に入りクラブの数が増えると共に、防音設備などがきちんと整っていない店舗の騒音などにより近隣の住民の苦情などのトラブルが増加していきました。

さらに、2010年に大阪のクラブで傷害致死事件が起きたことなどの影響により、クラブに対する警察の取り締まりが強化され、風営法の許可を取っていない店舗が違法営業として摘発されるということが頻繁に起きるようになりました。この流れの1つとして、いわゆるNOON裁判(2015年3月現在、上告審が係属中)があります。

これに伴って、廃業したクラブがいくつも現れるとともに、閉店はしていない店舗も深夜営業を取りやめるようになり、クラブシーンの勢いがどんどん失われていくことになりました。DJやミュージシャンにとっては、表現の場所が奪われていく形となってしまっています。海外では、クラブミュージックを通過したDJやミュージシャンが評価され、さまざまな新しい音楽を生み出している中、日本ではDJやミュージシャンの表現の場が少なくなることで、国際的な競争力が失われる原因の一つになってしまっているのではないでしょうか。

さらに、日本のメーカーは、世界中のクラブや音楽の現場で使われ事実上のスタンダードとなっている機材を生み出していますが、日本ではクラブ営業自体が違法であるためコンプライアンス(法令を守ること)の観点から、スポンサーとしてクラブを応援することが難しい状況が起きています。その他の企業にとっても、クラブでのプロモーション展開などビジネスでの活用方法がいくらでも考えられるのに、風営法の壁のせいで、なかなか実現できないという状態にあります。

風営法改正に向けた署名運動とロビー活動の開始  

こういった一連の動きや状況を受けて、風営法の規制に対して疑問を持った、坂本龍一氏を始めとするミュージシャンを中心に『Let's DANCE署名推進委員会』が結成され、風営法改正を求めた全国規模の市民運動が立ち上がって行くことになりました。

そして、2013年2月には、弁護士などが風営法改正に向けてロビー活動を開始します。また、同年4月には、DJやミュージシャンで構成される『クラブとクラブカルチャーを守る会』(CCCC)が発足し、DJやミュージシャンがロビー活動に参加していくことになります。

同年5月には15万筆超の『ダンス規制の見直しを求める請願署名』が国会に提出され、超党派国会議員約60名で構成される『ダンス文化推進議員連盟』が発足します。

その後も、クラブに対する摘発などが続きましたが、同年8月には、クラブ事業者による事業者団体も発足し、風営法改正に向けた動きが加速していきます。

そして、同年11月に『ダンス文化推進議員連盟』が風営法改正に向けた中間提言を取りまとめ、2014年の通常国会での風営法改正を目指すことが示されました。

2014年の動き 

2014年に入り、各関係者が風営法改正に向けて調整を行っていたのですが、同年6月に、政権与党である自民党の内閣部会で風営法の改正案について賛同を得ることができず、同年の通常国会での風営法改正は見送られることになりました。

ところが、各関係者は、歩みを止めることなく、ロビー活動などを続け、風営法改正案の内容が練り直されることにより、同年10月24日に、内閣が風営法改正案に関して閣議決定を行うまでに至ります。

これにより、2014年の臨時国会の会期中に、風営法改正案が審議・可決される見込みでしたが、衆議院の解散・総選挙が行われたことに伴い、風営法改正案は審議されることなく、いったん廃案とされることになってしまいました。

2015年の風営法改正実現に向けて

しかしながら、総選挙後も風営法改正についての機運は失われることなく、2015年3月3日に、2014年に閣議決定された風営法改正案と同じ内容の改正案について閣議決定が行われました。

これを受けて、2015年の通常国会で審議がなされ、今度こそ風営法の改正が実現する見込みです。

 

このように、2015年3月時点までの、風営法改正についての流れをおおまかに見てきました。 具体的にどのような風営法改正が行われようとしているのかについては、改めてお伝えしたいと思います。

*1:風適法」と呼ぶ場合もあります。

*2:もちろん、踊りだしてお店のものを壊したり、他のお客さんにぶつかってケガをさせたりした場合には違法行為になる可能性はありますが、それは風営法とは関係ないお話です。

*3:関東で使われる「江戸間」での換算