COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

クラブの営業地域の制限って何?(1)

【この記事のポイント】

(1)クラブの立地規制を定めているのは、風営法だけではない。

(2)日本では都市計画法建築基準法などの各種法令によって、どのような地域に、どのような建物を建てられるかが定められている。

(3)建築基準法によれば、3号営業に該当するクラブは、商業地域と準工業地域でのみ営業が可能。カラオケボックスや劇場・映画館よりも営業できる地域が制限されている。

 

クラブの立地規制

これから何回かに分けて、クラブの営業地域の制限に関する規制(立地規制)について整理していきたいと思います。

クラブの立地規制について考えるにあたっては、風営法だけではなく、都市計画法建築基準法などについても見ていく必要があります。まず、今回のエントリーでは、都市計画法建築基準法について検討していきます。

都市計画法

日本では、都市計画法という法律で都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、都市をどのようにデザインしていくかという指針が定められています。*1

この都市計画法の8条から10条には、「地域地区」というものが定められています。

「地域地区」というのは、地域の実情の応じて、建築できる建築物の用途、形態、構造などに関して一定の制限を課すことによって、その場所にふさわしくない土地の利用を排除して、都市の機能や環境を適正なものにしようというものです。

こんな例を想像してみてください。

あなたは閑静な住宅街に住んでいたとします。まわりには、一戸建ての家屋ばかりで商店などはあまり見かけません。そんな住宅街の真ん中に突然大きな騒音を出す工場が出来ました。周囲の住民は、一日中、工場が出す音で落ち着いて生活することができません。工場から出る排気ガスのせいで、心なしかベランダに干している洗濯物が汚れているような気もします。

これは極端な例ですが、地域の性格に応じて、建築できる建築物などについて一定の制限を掛けずに、土地の権利者が自由に建築できるとすれば、一戸建ての住宅の横に巨大な工場や商業施設ができるといったことも考えられます。これでは住環境の保護が図られなくなってしまう可能性が高いです。

このため、都市計画法は、どの地域にどういった建築物を建てられるかという「地域地区」というものを定めているのです。

用途地域」とは?

「地域地区」については、都市計画法8条にどのような種類のものがあるのかが列挙されていますが、その中でも根幹をなすのが、12種類ある「用途地域」です(都市計画法8条1項1号)。 ここで、都市計画法8条1項1号に定められている「用途地域」の種類について、下記の表にまとめましたので、ご覧ください。

分類名称定義
住居系 ①第一種低層住居専用地域 低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域
②第二種低層住居専用地域 主として低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域
③第一種中高層住居専用地域 中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域
④第二種中高層住居専用地域 主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域
⑤第一種住居地域 住居の環境を保護するため定める地域
⑥第二種住居地域 主として住居の環境を保護するため定める地域
準住居地域 道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するため定める地域
商業系 ⑧近隣商業地域 近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進するため定める地域
⑨商業地域 主として商業その他の業務の利便を増進するため定める地域
工業系 準工業地域 主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するため定める地域
⑪工業地域 主として工業の利便を増進するため定める地域
⑫工業専用地域 工業の利便を増進するため定める地域

 

用途地域の定義は、都市計画法9条に列挙されています。 上記の定義を見ただけでは、どの地域がどういったものなのか具体的なイメージがつかめないと思いますが、こういう風に分類しましょうというおおまかなルールだと思っていただければ良いと思います。*2

むしろ大事なのは、各用途地域について、どんな建物を建てることができ、どんな建物の建築が制限されているのかを具体的に見ていくことです。

では、各用途地域でどんな建物が建てられて、どんな建物の建築が制限されているのでしょうか。

都市計画法10条は、次のように定めています。

地域地区内における建築物その他の工作物に関する制限については、この法律に特に定めるもののほか、別に法律で定める。

この「別に法律で定める」の「法律」で、もっとも重要なのが建築基準法です。

建築基準法による用途地域の制限

建築基準法という法律は、国民の生命、健康、財産を保護するために、建築物の敷地、設備、構造、用途に関する最低の基準を定めた法律です(建築基準法1条)。

建築基準法48条は、各用途地域について建築物の制限を具体的に定めています。

細かく見ていくときりがないので、現行法のナイトクラブの営業、すなわち風営法の3号営業について見てみると、建築基準法48条と同条が引用する同法別表2では、ナイトクラブは、⑨商業地域と⑩準工業地域にしか建築できないと定めています。*3

ここで、比較対象として、カラオケボックス、劇場・映画館についても建築基準法上の用途地域の制限についても記載した表をあげておきますので、参考にしてみてください。なお、△になっている部分は、床面積が1万㎡を超えるものについては建てられないとされています。

クラブの立地規制は、カラオケボックス、劇場・映画館に比べて厳しいなと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 ナイトクラブカラオケボックス劇場・映画館
住居系 ①第一種低層住居専用地域 × × ×
②第二種低層住居専用地域 × × ×
③第一種中高層住居専用地域 × × ×
④第二種中高層住居専用地域 × × ×
⑤第一種住居地域 × × ×
⑥第二種住居地域 × ×
準住居地域 ×
商業系 ⑧近隣商業地域 ×
⑨商業地域
工業系 準工業地域
⑪工業地域 × ×
⑫工業専用地域 × ×

 

今回のエントリーはここまで。

次回は、風営法に基づく営業地域の制限のお話に入っていきたいと思います。

*1:「都市計画」とは、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用、都市施設の整備および市街地開発事業に関する計画をいいます(都市計画法4条1項)。

*2:なお、平成4年に行われた都市計画法の改正以前には、①第一種住居専用地域(現行法の第一種・第二種低層住居専用地域)、②第二種住居専用地域(現行法の第一種・第二種中高層住居専用地域)、③住居地域(現行法の第一種・第二種住居地域・準住居地域)、④近隣商業地域、⑤商業地域、⑥準工業地域、⑦工業地域、⑧工業専用地域という8つの区分に分類されていました。

*3:なお、4号営業(ダンスホール)についても、同様に⑨商業地域と⑩準工業地域にしか建築できないと定められています。