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COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

クラブの営業地域の制限って何?(3)

【この記事のポイント】

(1)保護対象施設からの距離制限は、保護対象施設の周辺の静穏、清浄な環境を保護することを主目的とする。

(2)保護対象施設との距離を計測する際には、高さについては考慮されず、水平面の距離で測ることになる。

 

保護対象施設

 前回のエントリーで、風営法に基づく営業地域、営業区域の制限について見てきました。

今回は、前回のエントリーの後半で触れた保護対象施設に関して、 もう少し詳しく見ていこうと思います。

まずは、前回掲載した表を再度ご覧ください。

用途地域保護対象施設営業可能区域
商業地域 学校(大学を除く)、図書館、児童福祉施設 50m以上の区域
大学、病院、診療所(ベッド8床以上) 20m以上の区域
第二種助産施設、診療所(ベッド7床以下) 10m以上の区域
準工業地域 上記すべて 100mを超える区域

 

表のとおり、東京都でクラブの営業(現行の3号営業)を営むためには、 商業地域の場合は、①学校(大学を除く)、図書館、児童福祉施設からは50m以上、 ②大学、病院、診療所(ベッド8床以上)からは20m以上、③第二種助産施設、診療所(ベッド7床以下)からは10m以上離れた場所でないといけません。

また、準工業地域の場合は、上記の①から③の全ての保護対象施設から100m超*1離れた場所でないといけません。

保護対象施設が設けられた趣旨

なぜ、上記の①から③のような施設が保護対象施設とされているのでしょうか。

保護対象施設が設けられた趣旨は、「風俗営業の営業所から生じる喧騒、享楽的雰囲気等から、地域住民の良好な風俗環境における生活を保護するとともに、保護対象施設の設置目的を十分達成できるようにするため、周辺の静穏、清浄な環境等を確保することにある」*2とされています。

保護対象施設として挙げられているものを見れば、周囲で風俗営業が営まれるのは好ましくないという価値判断がなされているというのが見て取れると思います。

学校に関しては、未成年者もいることから、周囲に風俗営業の営業所があるのは望ましくないという考えがあるでしょうし、図書館や病院施設に関しては、周囲に風俗営業の営業所が存在して騒がしくされるのは困るというのもあるでしょう。

ここで再び保護対象施設について定めている風営法施行令6条を見てみましょう。

風俗営業の許可に係る営業制限地域の指定に関する条例の基準)

第六条  法第四条第二項第二号 の政令で定める基準は、次のとおりとする。

一  風俗営業の営業所の設置を制限する地域(以下「制限地域」という。)の指定は、次に掲げる地域内の地域について行うこと。

イ 住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域(以下「住居集合地域」という。)

ロ その他の地域のうち、学校その他の施設で学生等のその利用者の構成その他のその特性にかんがみ特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものの周辺の地域

二  前号ロに掲げる地域内の地域につき制限地域の指定を行う場合には、当該施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲おおむね百メートルの区域を限度とし、その区域内の地域につき指定を行うこと。

三  前二号の規定による制限地域の指定は、風俗営業の種類及び営業の態様、地域の特性、第一号ロに規定する施設の特性、既設の風俗営業の営業所の数その他の事情に応じて、良好な風俗環境を保全するため必要な最小限度のものであること。

風営法施行令6条1号ロが保護対象施設を定めた規定であることは前回のエントリーでも触れました。 そして、同条2号は、保護対象施設により風俗営業の立地規制を行う場合に、営業制限地域については保護対象施設からおおむね100mの区域を限度にしなさいということを定めています。 この規定からすれば、100mを大幅に超えて、保護対象施設から200m程度の地域まで営業制限地域として条例で指定するのはやりすぎであり、許されないということになってきます。

保護対象施設からの距離の計測方法

では、保護対象施設からの距離というのは、どのように計測するのでしょうか。

風営法施行令6条2号の「当該施設の敷地」というのは、「実際に当該施設を利用する者の用に直接供されている範囲の土地」*3をいうとされています。

次に、「おおむね百メートル」の意味については、 警察庁が定める風営法の解釈運用基準*4第11第9項(2)に次のような記載があります。

(2) 令第6条第2号中「おおむね百メートル」とは、水平面で測る距離についていうものであり、例えば、営業所がビルの二階以上又は地下にある場合でも、営業所の存在する位置から垂直に地面に下ろした位置について測るものとする。

このように保護対象施設に関しては、建物の高さについては考慮されず、水平面での直線距離で計測されることになります。

さらに、雑居ビルの一角に診療所等がある場合には、原則として、その診療所等の施設の専用部分の敷地の外周を基点として距離を計測するとされています。*5

また、風俗営業の営業所に関しては、営業所は社会通念上一つの営業の単位といいうる程度に他の部分から外形的に独立した施設をいい、建物の構造上完全に他から独立分離していることを要しないされており、建物構造上、独立していなくても間仕切りによって区画されていることにより、1つの営業の単位といえる場合には、その間仕切りを基点として距離を計測するものとされています。*6

保護対象施設に関する問題意識

保護対象施設に関しては、上記で見たとおり、建物の高さを考慮せずに水平面で測ることになるため、風俗営業を行おうとするビルの中に例えば歯科医院があったような場合、保護対象施設との距離の制限に引っかかって出店できないということが想定されます。

例えば、10階建てのビルで、1階に歯科医院があり、そのビルの最上階にクラブを作ろうとした場合、そのビルの敷地面積が例えば100㎡程度であれば、保護対象施設からの距離制限に引っかかって出店できないことになります。

でも、1階に歯科医院があるような場合に、10階に防音設備を整えたクラブが作られたときに、歯科医院の静穏等が保たれなくなるというようなことがあるのでしょうか。高さがある程度離れていれば、保護対象施設の趣旨を達成することも可能なのではないでしょうか。

こういった問題意識については、警察庁が今回の風営法改正案を作る過程で開催された第2回風俗行政研究会質疑応答での森ビル株式会社の回答の中でも次のように指摘されています。

○ 森ビル株式会社(取締役常務執行役員河野雄一郎)(応答)

今の距離規制は、平面的に見ている。最近竣工した虎の門ヒルズのように足元に店舗が入って、その上にフォーラムがあって、オフィスがあって、住宅があって、ホテルがあるという、複合の用途構成になっている。ここには、ご指摘の病院系や学習系の施設はないが、そういったものも今後複合的に組み合わせてくる可能性があるので、一律に 距離ということをどう測っていくのか。つまり、横ではなくて、縦積の場合、どう考えていくのかということは重要。その場合には、導線が区別されているとか、騒音のレベル、そういったことについてどう考えていくのか。 これからは、どんどんまちづくりは変わっていく。従来の建築基準法であったり、風営法も含め、そこの部分は別な条項で、その時々に合わせて変えられるようなことになれば幸いである。

上記の回答の中にもあるように、保護対象施設との一定の距離を確保すること自体の必要性はあるものの、その運用を行うにあたっては、施設の性質や実際に騒音等が生じる可能性があるのかといった点なども考慮しながら柔軟に定めて行く必要があると思います。

また、保護対象施設を設ける理由として、未成年者への悪影響や、入院患者等のために静かな環境を作るという点がありますが、例えば、学校の近くでも生徒がいない夜間に営業する場合には未成年者への悪影響というものは生じないのではないかといった問題意識や、入院施設がなく夜間に患者がいないような病院、診療所であれば、その近くで夜間に営業を行っても構わないのではないかといった問題意識もあります。

さらに、保護対象施設に関しては、風俗店の出店を妨害するために用いられるといったいわゆる出店妨害事案の問題もあります。都道府県側が、住民の意向を受けて、企業が風俗営業の営業所を設けられないようにするために、あえて保護対象施設を設けるという事例もありますし、場合によっては風俗営業を行う者がライバル企業の出店を妨害するためにライバル企業が出店しようとしている場所の近くに保護対象施設を設けるような場合まであるとも言われています。

こういった問題意識なども検討したうえで、保護対象施設による立地規制が、保護対象施設を設けた趣旨を達成するために本当に実効的に機能しているといえるのかを、各保護対象施設の性質なども踏まえて、きちんと精査していく必要があると思います。

風営法のもとでの立地規制がどうなるのか

では、新風営法のもとでは、今まで見てきた立地規制について、どのようになるのでしょうか。

風営法の改正案では、現行風営法の4条2項2号は、そのまま残ります。

このため、風営法のもとでも、これまで見てきたとおり、風営法4条2項2号にあるように、 政令の定める基準にしたがって、各都道府県で定められる条例によって、 立地規制が定められていくことになります。

そして、新風営法で新たに設けられる特定遊興飲食店について、立地規制がどのように定められるかは、 政令や条例に委ねられる部分が多く、どうなるのかはまだ未知数です。

これについて、一部では、特定遊興飲食店営業については、深夜遊興を解禁する以上、 その営業可能地域については、ある程度絞っていく必要があるのではないかという考えも出ているようです。

ここについては、非常に重要な問題をはらんでいるのですが、 今回のエントリーはここまで。

次回のエントリーでは、特定遊興飲食店営業の営業可能地域について、 どのような考えが出ているのかなどについて詳しく見ていきたいと思います。

*1:「以上」と「超」の違いですが、「以上」の場合は100mも含まれますが、「超」の場合は100mは含まれず、100mを超えないといけないということになります。

*2:蔭山信『注解風営法東京法令出版:303頁

*3:蔭山信『注解風営法東京法令出版:303頁

*4:風営法風営法施行令、風営法施行規則について、こういうふうに解釈して運用しなさいという通達

*5:最高裁判所第3小法廷判決平成6年9月27日(判例時報1518号10頁)

*6:最高裁判所第3小法廷判決平成6年9月27日(判例時報1518号10頁)