COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

特定遊興飲食店営業の検討課題は?

【この記事のポイント】

(1)特定遊興飲食店についての検討課題はたくさんある。

(2)検討課題について、警察サイドを始め、多くの関係者と対話をしていくことが大切。

(3)警察サイドも、事業者やユーザーの意見を聞きたがっている。

特定遊興飲食店営業って何?

前回のエントリーでは、今回のエントリーで特定遊興飲食店営業の営業可能地域について触れていくと予告しましたが、その前に、新風営法で新設される特定遊興飲食店がどういったものなのか、そして、どんな課題があるのかをざっと整理しておくことにしましょう。

 

以前のエントリーでも触れましたが、今国会で成立予定の新風営法では、ダンスを基準に規制する現行の3号営業、4号営業のカテゴリーがなくなり、特定遊興飲食店営業という風俗営業ではない新たなカテゴリーが設けられることになります。

ここで、特定遊興飲食店営業の定義を見てみましょう。風営法2条11項に定義が定められています。

風営法2条11項

この法律において、「特定遊興飲食店営業」とは、ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ 、かつ、客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る。)で、午前六時後翌日の午前零時前の時間においてのみ営むもの以外のもの(風俗営業に該当するものを除く。)をいう。

特定遊興飲食店営業を行おうとする人は、各都道府県の公安委員会の許可を受けなければなりません(新風営法31条の22)。

特定遊興飲食店営業についての検討課題

特定遊興飲食店営業に関して、現在、検討すべきと考えられている主な課題について、挙げておきましょう。

①「遊興」とは何か?

②営業所の構造、設備の要件はどうなるのか?

③営業所を設けることができる立地要件はどうなるのか?

④照度が10ルクスを超える必要があるが、どうやって計測するのか?

⑤許可制という形をとるのが妥当なのかどうか?届出制で足りるのではないか?

⑥現行法の深夜酒類提供飲食店営業では深夜遊興禁止に違反しても刑罰は課せられなかったが、特定遊興飲食店営業については許可を得なければ刑罰を課せられることになるのは、規制の実質的な強化にならないか?

⑦申請から許可取得までの期間はどうなるのか?

上記の各検討課題について、簡単に触れて行きたいと思います。各検討課題についての詳しい中身については、改めて別のエントリーで触れて行くことにしたいと思います。

①「遊興」とは何か?

特定遊興飲食店営業の定義の中に「ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ」とありますが、 ここでいう「遊興」が何なのかについては、新風営法の中では特に明らかにされていません。

現行の風営法解釈運用基準の中では、「遊興」の具体例として、下記のようなものが含まれるとされています。

① 不特定多数の客に歌、ダンス、ショウ、演芸、映画その他の興行等を見せる行為

② 生バンドの演奏等を客に聴かせる行為

③ のど自慢大会等客の参加する遊戯、ゲーム、競技等を行わせる行為

ご覧いただければわかるとおり、「遊興」というのは、3号営業、4号営業の規制の対象となっていた「ダンス」に比べるとかなり広い概念です。

「遊興」の概念の定め方しだいでは、例えば、夜中に弾き語りのライブを行うようなお店についても特定遊興飲食店営業の許可が必要になってくる可能性があります。

果たして、このようなお店についても特定遊興飲食店営業に位置づける必要性があるのかどうか?

みなさんはどうお考えでしょうか。

これについては、クラブだけの問題ではなく、多くのエンターテインメントに影響してくる問題です。

「遊興」の概念については、警察庁が新風営法の解釈運用基準の中で明らかにしていくことになると思うのですが、どのようなものを「遊興」の概念に入れるのが妥当なのかについては、警察サイドと積極的に意見交換をしていく必要があります。

②営業所の構造、設備の要件はどうなるのか?

営業所の構造または設備が国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合しないときには、特定遊興飲食店営業の許可を受けることはできません(新風営法31条の23、同4条2項1号)。

このように特定遊興飲食店営業の営業所の構造、設備は、新風営法のもとで新たに国家公安委員会規則で定められることになります。この中の1つである客室1室の面積について、警察サイドは、33㎡以上とするのが妥当ではないかという意見を持っているようです。現行の3号営業の基準が66㎡以上であったことからすると、半分に緩和されています。

営業所の構造、設備をどうするのが妥当なのかについても、警察サイドと積極的に意見交換をしていく必要があります。

③営業所を設けることができる立地要件はどうなるのか?

営業所が、良好な風俗環境の保全に障害を及ぼすことがないため特にその設置が許容されるものとして政令で定める基準に従い条例で定める地域内にないときには、特定遊興飲食店営業の許可を受けることはできません(新風営法31条の23、同4条2項2号)。

ただし、当該営業所が、ホテル等の施設内に所在し、かつ、良好な風俗環境の保全に障害を及ぼすことがないため特にその設置が許容されるものとして国家公安委員会規則で定める基準に適合するものであるときは、上記の地域内になくても特定遊興飲食店営業の許可を受けることができることになります(新風営法31条の23、同4条2項2号)。

このように特定遊興飲食店営業の立地要件については、政令でおおまかな基準を定めたうえで、都道府県ごとに条例で具体的な内容を定めていくことになります。

以前のエントリーでも見ましたが、現行風営法では、ナイトクラブ等の3号営業については、商業地域と準工業地域でしか営業できないことになっています。

特定遊興飲食店営業については、どうなるのでしょうか?

これについて、警察サイドは、現在のところ、特定遊興飲食店営業については、現行風営法の営業延長許容地域と同程度の地域を指定すればいいのではないかという考えを示しています。営業延長許容地域というのは、営業時間を深夜1時まで延長することが許される地域をいいますが、東京都の場合だと、商業地域の中でも一定の大規模繁華街に限られています。*1

これでは、現行の3号営業の立地要件よりも厳しくなってしまう可能性があります。

警察サイドが特定遊興飲食店営業について、営業地域をある程度制限して行こうと考えているのは、現行風営法では禁止されている飲食店での深夜遊興を解禁するわけだから、ある程度、地域を絞った方が良いのではないかという考えから来ているようです。

ある程度、地域を絞るといった場合に、現行の営業延長許容地域と同程度で良いのかどうかということは、警察サイドでも考えが固まっているわけではないようです。

先日も、クラブの事業者サイドが、警察庁に面談を行い、特定遊興飲食店の立地要件を、営業延長許容地域と同程度とすることによる問題点を伝えると、警察サイドでも問題意識を共有していただけたようです。

深夜に自由にエンターテインメントを楽しめるような営業を行いたいという要請がある一方で、周辺住民が平穏な環境で暮らしたいという要請があり、両者をどのようにバランスを取っていくのかを考えるルールが、法令等による規制です。

警察サイドも、単に規制を強化するのが良いと考えているのではなく、どのような規制が妥当なのかを悩んでくれているのだと思います。だからこそ、私たちは、警察サイドと意見交換して議論していく必要があります。

④照度が10ルクスを超える必要があるが、どうやって計測するのか?

営業所の客室の照度が10ルクス以下になる場合には、低照度飲食店として風俗営業にあたるため、特定遊興飲食店営業を行うにあたって、客室の照度が10ルクスを超える必要があります。

しかし、エンターテインメントにおいては、演出上の効果として、客席を暗くしたり、ストロボ効果を狙った照明にしたりする必要が出てきます。一時的に照度が10ルクス以下になることもあるでしょう。そんな場合に、全てが10ルクス以下にあたるとして、低照度飲食店に位置づけられることになるとしたら、新風営法で特定遊興飲食店営業を定めて意味がなくなってしまいます。 照度について、どのように測るのか、これも1つの課題となっています。

⑤許可制という形をとるのが妥当なのかどうか?届出制で足りるのではないか?

特定遊興飲食店営業について、風営法改正案では許可制としていますが、それよりも申請がゆるやかになりうる届出制でよいのではないかという考えもあります。

⑥現行法の深夜における飲食店営業や深夜酒類提供飲食店営業では深夜遊興禁止に違反しても刑罰は課せられなかったが、特定遊興飲食店営業については許可を得なければ刑罰を課せられることになるのは、規制の実質的な強化にならないか?

これまでも、深夜における飲食店営業や深夜酒類提供飲食店営業では深夜遊興が禁止されていて、飲食店で深夜に客に遊興させることは違法とされてきましたが、深夜に客に遊興させたことそれ自体について刑罰が課せられることはありませんでした。

しかし、新風営法では、特定遊興飲食店営業の許可を得ずに、深夜に客に遊興をさせた場合、特定遊興飲食店営業の無許可営業となり、刑罰が課せられることになります(新風営法49条7号)*2

「遊興」の概念を広くとらえてしまうと、今まで罰則がなかったものについて、刑罰が課される可能性が出てくることになってしまい、実質的に規制の強化につながることになります。このようなことを警察サイドとの意見交換の際に伝えていき、「遊興」の中身をできるかぎり限定的に定めていけるようにすることが大切であると考えます。

⑦申請から許可取得までの期間はどうなるのか?

現行の3号営業については、申請から許可取得までの期間は原則55日以内とされています。 許可取得できるまでは営業できませんから、申請から許可を取得できるまでの間は、お店を営業できないのに、家賃等の費用が掛かっていくことになります。このことも、3号営業を行うためのハードルの1つとなっています。

特定遊興飲食店営業の許可を取得するための期間がどうなるのかについては、まだ決まっていませんが、例えば、現在、深夜酒類提供飲食店営業を行っている店舗が、特定遊興飲食店営業の許可を取得したいといった場合に、現状の営業を続けながら、許可を取得することができるようなスキームを作ることが求められていると思います。

 

以上、特定遊興飲食店営業に関しての検討課題を駆け足で見てきました。

以前のエントリーでも触れてきましたが、新風営法のもとでの各基準は決まっていないものがたくさんあります。 それをどのように決めて行くのかについては、風営法改正案が国会で通った後は、政令、国家公安委員会規則、条例、都道府県公安委員会規則、風営法解釈運用基準などに委ねられていくことになります。

特定遊興飲食店営業に関する規定は、深夜におけるエンターテインメントのあり方をどのようにルールづけるかというものであり、それをどのように定めるのかについて、内閣、公安委員会、地方議会などなど、いろいろな人たちが試行錯誤していくことになります。 彼らも、単に規制をしよう規制をしようと考えているわけではなく、どのようなルール作りをするのがふさわしいのかを悩んでいるのです。

私が警察庁の方と面談した際も、例えば、「照度の測り方に関してこういう測り方をするのが良いと考えているんですが、事業者の皆さんはどう思いますか」といった問いかけを警察庁の方から投げかけられたこともあります。彼らは、事業者やその背後にいるユーザーの意見に耳をかたむけようという姿勢を持っているのです。

一方で、残念ながら、今回の風営法の改正運動に関しては、クラブだけの問題だととらえられることが多かったために、ライブハウスその他のエンターテインメントに携わる方々やそのユーザーの意見が警察サイドにあまり届いていないという問題があります。クラブに興味がないけれども、音楽やその他のエンターテインメントが好きだという皆さんにも、今回の風営法の改正の問題を知っていただいて、自分はどう考えるのかという意見を是非、聞かせていただきたいです。

私個人の話をすれば、ずっとバンドを続けていて、ライブハウスにも出演している経験もあり、ライブハウスにも関係してくる風営法改正の問題に携わる必要があると考えて、クラブとクラブカルチャーを守る会に参加し、現在の風営法改正のロビー活動に関わっていくことになりました。そのため、私個人としては、クラブのことだけではなく、ライブハウスなどのことも考えてロビー活動を行っているつもりです。

でも、私は、クラブやライブハウスの事業者ではありません。警察サイドは、事業者の方の直接の意見を聞きたいと考えています。是非、多くの事業者の方にもご自身の問題として意見を伝えていただきたいです。そして、もちろん、クラブやライブハウスを始めとするエンターテインメントを楽しむ多くのユーザーのみなさんの意見も大切です。

国のルールを決めるのは、私たち国民です。風営法で、日本のエンターテインメントをどうしていきたいと考えるのも私たち国民です。

ナイトエンターテインメントを充実させたいという国民もいれば、夜の静かな環境を保っていきたいという国民もいる。いろいろな立場の人が議論しながら決めていくのが国のルールである法令なのです。

今まで、見てきたとおり、今回の風営法改正に関しては、決まっていないルールがたくさんあります。今なら具体的なルールを決めていく国会、内閣、公安委員会、地方議会などに対して、意見を伝えていくことが可能です。是非、みなさんの意見をルールに反映させられるようにするために、意見を伝えて行きましょう。私たち国民は、単に決まったルールを守る存在なのではなく、ルールを決めていく存在でもあるのです。

 

今後も、本ブログで検討課題などをお伝えしていくつもりです。みなさんの議論の材料にしていただけたら幸いです。

*1:詳しくは別エントリーで検討しましょう。

*2:2年以下の懲役もしくは200万円の罰金、またはこれの併科(「併科」とは懲役と罰金の両方を課すということです)