COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

【警察庁パブコメ】特定遊興飲食店営業の照度の測定方法や面積の基準はどうなるの?|改正風営法

【この記事のポイント】

(1)営業所の照度は10ルクスを超えている必要がある。

(2)飲食用客席で客に遊興させる場合、飲食用客席で照度を計測するが、営業時間の半分未満なら10ルクスを下回ってもOK(低照度飲食店営業とは扱わない)。

(3)飲食用客席で客に遊興させない場合には、飲食用客席が客室全体の5分の1以上あれば、飲食用客席のみで照度を計測(遊興スペースは計測の対象外)。

(4)客室一室の面積は33㎡以上。客室が複数ある場合、一室ごとに33㎡以上あることが必要。

「照度」の測定方法

 

特定遊興飲食店営業については、営業所内の照度を国家公安委員会規則で定める基準以下にしてはならないとされています*1

この国家公安委員会規則で定める基準について、今回の警察庁の案は、「10ルクス」としています*2

これにより、特定遊興飲食店営業の営業所の照度は、10ルクス以下にしてはならないことになります。

照度を10ルクス以下にして飲食店を営業する場合には、低照度飲食店営業にあたります。低照度飲食店営業は、風俗営業の1つであり、風営法に基づく許可を取得したうえで営業することが必要です。

もっとも、ライブ、DJ、ダンス、演劇、映画を始めとするあらゆるパフォーマンスにおいては、演出上の効果として、照明や映像が重要な意味を持ちます。効果的な照明や映像を実現するためには、暗さが不可欠です。このため、客室全体が常時10ルクスを超えていないといけないとすると、パフォーマンスを行えない状況に等しいと言っても過言ではないでしょう。

ダンスフロアにおける暗闇の重要性については、DOMMUNEを主宰されている宇川直宏さんのこちらの文章が非常に素晴らしいので、未読の方は是非ご覧ください。

私たちがロビー活動を行う際にも、演出上の効果として、10ルクスを下回ることが不可欠であることを主張し、照度の計測方法を定めるにあたって、このことを充分に考慮して欲しい旨を警察庁に求めてきました。

その結果として、警察庁が今回示してきた案が次の計測方法です。

[1]飲食用客席で遊興をさせる業態(ショーパブ等)

・飲食用客席で照度を測定する。

・営業時間の半分以上を10ルクス以下にすれば、低照度飲食店営業に当たると解釈することとする。

[2]飲食用客席以外の場所で遊興させる業態(ディスコ等)

・原則として飲食用客席で照度を測定する。

・ただし、飲食用客席の面積が客室の面積の1/5以下ならば、遊興させる場所を照度の測定場所に追加し、そのいずれかにおいて照度が10ルクス以下である場合は低照度飲食店営業に当たるものとする。

 

上記の整理をフローチャートにしたのが以下の図です。

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このように、演出上の効果として、10ルクスを下回る場合があることを前提とした計測方法を定めている点は評価できます。

ただし、以下のような問題点もあります。

 

まず、[1]の場合、10ルクスを下回ることができるのが営業時間の半分未満であるとすることが果たして妥当なのでしょうか。

ステージで繰り広げられる遊興を鑑賞しながら、客席で飲食を楽しむというような場合に、ステージの照明を効果的にするために、飲食用客席を暗くしたからといって、男女間の享楽的な雰囲気を醸成するような状況が果たして生まれるのでしょうか。

このような状況が生まれる可能性が低いにもかかわらず、営業時間の半分以上、10ルクスを超えていたら、低照度飲食店営業として風営法の規制を受けなければならないとすることは過度な規制を行うものといえないでしょうか。

 

次に、[2]の場合、飲食用客席のみを照度の計測対象とするためには、飲食用客席の面積が客室全体の面積の1/5を超えている必要があるとすることは果たして妥当なのでしょうか。

特に、客室全体の面積が広い場合、その1/5というのは結構な大きさになります。例えば、客室全体が500㎡あった場合、その1/5は100㎡です。こうした場合に、100㎡の部分について、常時10ルクスを超えていることが求められたとした場合、結局のところ、それ以外の遊興スペースについても実質的に相当な明るさになるはずです。

これでは、遊興を行ううえで不可欠な照明、映像などの演出が効果的に行うことができず、実質的に遊興をさせることができないことになりかねません。

これは、相当な問題です。このようなことを避けるためにも、照度を測定すべき面積はある程度小さくできるようにしておく必要があると思われます。

例えば、客室全体の面積が100㎡未満の場合には、前述の警察庁の案を維持する一方で、客室全体の面積が100㎡以上になる場合には、飲食用客席の面積が客室全体の面積の1/10を超えていればいいというように、客室全体の面積に応じて段階的な基準を設けるといった柔軟性を持たせるというのはどうでしょうか。

客室一室の面積

次に、特定遊興飲食店営業の客室一室の面積について、検討してみましょう。

客にダンスと飲食をさせる、現行風営法の3号営業については、客室一室の面積は「66㎡以上」とされています。

この面積要件が厳しすぎるということは、ロビー活動の中でずっと訴え続けてきたことですが、その甲斐もあり、特定遊興飲食店営業の客室一室の面積は、66㎡の半分である「33㎡以上」ということになりそうです。

このように面積要件が緩和されたことは非常に喜ばしいことであるといえるでしょう。

 

ただ、まだ問題があります。

それは、この面積要件はあくまで客室一室ごとに満たす必要があるということです。

例えば、メインフロアとラウンジフロアが分かれているような店舗で、ラウンジフロアについては、33㎡以上ないというような場合、面積要件を満たさないことになってしまいます。

店の外に騒音が漏れないようにするために、あえて大きい音を出すメインフロアと、比較的音の小さいラウンジフロアを扉で区切っているという店舗は良く見られます。

このような店舗においては、ラウンジフロアはさほど大きくない場合も多く、33㎡以上という要件を満たすのは難しいという場合もあります。

近隣への迷惑が生じないようにするために、フロアを区切ったことが仇になって、特定遊興飲食店営業の許可要件を満たさなくなってしまうというのは何とも皮肉なことといえるのではないでしょうか。

警察庁は、特定遊興飲食店営業では「接待」ができないようにするために、ある程度、面積を広くとる必要があり、「接待」を伴う風俗営業についての洋室の最低面積である16.5㎡の2倍の広さである33㎡を最低面積とするのが妥当だと説明しています。

しかし、ある程度の広さがあれば接待ができなくなるというのは、あまり説得的な理由ではないと思います。

むしろ、現行風営法のような「ダンス」ではなく、ダンスよりも広い概念である「遊興」を持ち出すことになった以上、ある程度、狭い場所でも行える「遊興」をも想定したうえで、そのような「遊興」を行う店舗が許可を取得できるような形で要件を設定すべきです*3

新しい文化を作る動きというものは、得てして、最初は、少数のコミュニティの中から生まれてくるものです。少数のコミュニティの中で、様々な実験や試行錯誤が繰り広げられていく中で、新たなものが生まれ、より多くの人にアピールできるような文化として成長していく・・・。このような文化の生成過程には、様々な実験や試行錯誤を繰り広げることのできる「場」が必要不可欠なのです。

例えば、私が好きな多くのバンドも、最初は小さなライブハウスで客が数人という状態からスタートし、そのような小さな「場」で、音楽の実験を繰り返すことにより、音楽そのものを鍛えて、より多くの人にアピールできる音楽として成長させていくのです。このような音楽を鍛えるための「場」を確保することが、文化を生み出すためにはとても大切だと思っています。

私が特に、比較的小規模なクラブ、ライブハウス、DJバーなどが許可を取得できるようにするために、これまでもロビー活動を続けてきたのは、こうした比較的小規模な「場」をなくさないようにすることが文化の発展のために特に重要であると考えるからです。

このような観点からは、風営法の趣旨を害さないような形態で営んでいる比較的小規模な店舗が許可を取得できるようにするために、特定遊興飲食店営業の客室一室の面積は、緩和していくべきと考えています。

さらに、そもそも、今回の風営法改正は、規制緩和により、多くの飲食店が深夜に客を遊興させることができるようにすることで、インバウンドの要請などに応え、日本の経済力を増進させようということに狙いがあったはずです。

そうであれば、いたずらに面積要件を厳しくして、特定遊興飲食店営業の許可を取得できない店舗を増やしてしまうことは、規制緩和という観点からも妥当ではないといえるのではないでしょうか。

むしろ、多くの店舗が許可を取得できるようにし、店舗に許可を取得させた方が、警察が目指す風俗環境の維持などを実現できるのではないでしょうか。

仮に、接待を行える営業と特定遊興飲食店営業の最低面積を同じ16.5㎡にしたとしても、「接待」と「遊興」は区別ができるはずであり、もしも、特定遊興飲食店営業の許可をとっている店舗が「接待」を行っていることがわかった場合には、「接待」を止めさせるか、風俗営業の許可を取得するように指導するかすれば良いだけではないでしょうか。

このような点からも、客室一室の面積については、33㎡以上ではなく、16.5㎡以上とするのが妥当であると考えます。それが、難しいということであれば、せめて、メインフロアが33㎡以上ある場合には、ラウンジフロアのようなサブフロアについては16.5㎡以上あれば良いことにするといった、ある程度柔軟な考え方ができれば、良いと思っています。

 

以上、照度の測定方法と客室一室の面積に関して見てきました。

これらについて警察庁が今回示した案は、従前に見られた警察庁の考え方に比べると、だいぶ歩み寄りが見られるため、評価できると思います。

もっとも、照明や映像の効果を発揮させるためには、その対比としての「暗闇」が必要になることに配慮すべきであると考えます。

また、少数のコミュニティが実験を繰り返す「場」としての比較的小規模な店舗の重要性や、規制緩和という側面から見ると、もう少し許可取得の要件を緩和して、多くの店舗が許可を取得できるようにすべきです。そして、警察と店舗が連携を取れる状態を作ったうえで、お互い協力しながら、風俗環境を保全していくというのが、あるべき姿なのではないでしょうか。

 

今回は、ここまで。

次回は、特定遊興飲食店営業の定義の解釈案について、見ていくことにしたいと思います。

 

 

*1:改正風営法31条の23、同14条

*2:規則案96条

*3:例えば、弾き語りなどを行うような場合は、33㎡ないような店舗でも充分にできるはずです。そのような場合に、特定遊興飲食店営業の許可を取得できないとすることが妥当といえるでしょうか