COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

【警察庁パブコメ】「特定遊興飲食店営業」の定義はどうなるの?|改正風営法

【この記事のポイント】

(1)特定遊興飲食店営業は、「深夜+遊興+飲酒」の全てを満たす営業。

(2)「遊興」とは、営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせること。

(3)「営利性」がないものは特定遊興飲食店営業にあたらない。

(4)「継続性」がないものは特定遊興飲食店営業にあたらない。

(5)飲食をさせる「設備」がないものは特定遊興飲食店営業にあたらない。

深夜+遊興+飲酒

今回の改正風営法で新設された「特定遊興飲食店営業」。

これについては、これまでも当ブログにおいて、どういったものを指すのかについて触れてきました。

今回、警察庁のパブコメの中で、特定遊興飲食店営業の定義の解釈案が示されましたので、改めて整理したいと思います。

 

まず、前提として確認しておきたいのが、「特定遊興飲食店営業」というのは、次の3つを全て満たす場合の営業形態だということです。

【1】深夜(午前0時から午前6時まで)に営業すること
【2】客に「遊興」をさせること
【3】客に「酒類」を提供すること

特定遊興飲食店営業は、これまで、日本において、法律上は認められていなかった「飲食店における深夜遊興」を解禁する新たな営業形態です。

このため、【1】深夜に、【2】客に「遊興」をさせる飲食店に関する規制であることがポイントとなります。

また、「特定遊興飲食店」という名称からは、酒類を提供しない飲食店も含まれるように感じてしまいますが、あくまで、【3】「酒類」を提供するものに限定して、特定遊興飲食店営業の規制が該当すると考えられています。

この発想は、深夜に客が飲酒しながら遊興をたしなんだ場合、男女の享楽的雰囲気が醸成されたり、近隣への迷惑行為などが生じることにより、風営法の趣旨を害する可能性があると考えるところから出てきているものといえるでしょう。

下記に簡単に特定遊興飲食店営業の整理についてのフローチャートを載せておきますので、ご参照ください。

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深夜に営業

深夜というのは、「午前0時から午前6時まで」をいいます。現行風営法では、深夜とは「午前0時から日の出まで」とされていたのですが、今回の改正風営法で時間が明確にされました。

特定遊興飲食店営業は、あくまで深夜に営業するものを指しますので、午前6時から翌午前0時までのみの営業の場合には、特定遊興飲食店営業の許可を取得することなく営業することが可能です。

すなわち、ライブハウスや劇場などで、深夜営業を行わない店舗は、お酒を販売していたとしても、特定遊興飲食店営業の許可を取得する必要はありません。この部分は誤解されている方もいらっしゃるようですので、お気をつけください。

特定遊興飲食店営業の定義

では、今回の警察庁のパブコメで示された、特定遊興飲食店営業の定義の解釈について見てみましょう。

少し複雑になりますが、下記のフローチャートをご覧ください。

 

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警察庁は、特定遊興飲食店営業の要素を下記の3つにわけています。

[1]「遊興をさせる」

[2]営業

[3]「設備を設けて」

[1]「遊興をさせる」とは?

警察庁は、特定遊興飲食店営業として規制対象となる「遊興」は、「営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせる場合」であるとしています。

そして、警察庁は、「遊興」を鑑賞型、参加型の2類型にわけたうえで、どのような行為が「客に遊興をさせる」行為にあたるかの具体例を示しています。

示された具体例は、下記のとおりです。

「客に遊興をさせる」ことにあたる場合の具体例

1  不特定の客にショー、ダンス、演芸その他の興行等を見せる行為

2  不特定の客に歌手がその場で歌う歌、バンドの生演奏等を聴かせる行為

3  客にダンスをさせる場所を設けるとともに、音楽や照明の演出等を行い、不特定の客にダンスをさせる行為

4  のど自慢大会等の遊戯、ゲーム、競技等に不特定の客を参加させる行為

5  カラオケ装置を設けるとともに、不特定の客に歌うことを勧奨し、不特定の客の歌に合わせて照明の演出、合いの手等を行い、又は不特定の客の歌を褒めはやす行為

6  バー等でスポーツ等の映像を不特定の客に見せるとともに、客に呼び掛けて応援等に参加させる行為

 

「客に遊興をさせる」ことにあたる場合の具体例*1

1  いわゆるカラオケボックスで不特定の客にカラオケ装置を使用させる行為

2  カラオケ装置を設けるとともに、不特定の客が自分から歌うことを要望した場合に、マイクや歌詞カードを手渡し、又はカラオケ装置を作動させる行為

3  ボーリングやビリヤードの設備を設けてこれを不特定の客に自由に使用させる行為

4  バー等でスポーツ等の映像を単に不特定の客に見せる行為(客自身が応援等を行う場合を含む)

 

[2]営業の定義

特定遊興飲食店営業でいう「営業」とは、「財産上の利益を得る目的をもって、同種の行為を反復継続して行うこと」をいいます。

このため、営利性がない場合(「財産上の利益を得る目的」がない)や営業としての継続性がない場合(「反復継続」がない)は、深夜に人に遊興と飲食(酒類提供を伴うもの)をさせたとしても、特定遊興飲食店営業には該当しません。

営利性がない場合の例として、警察庁は次のものをあげています。

ア 日本に所在する外国の大使館が主催する社交パーティー

イ 結婚式の二次会として、新郎・新婦の友人が飲食店営業の営業所を借りて主催する祝賀パーティー*2

 

また、継続性がない場合の例として、警察庁は次のものをあげています。

ウ スポーツ等の映像を不特定の客に見せる深夜酒類提供飲食店営業のバー等において、平素は客に遊興をさせていないものの、特に人々の関心の高い試合等が行われるときに、反復継続の意思を持たずにたまさか短時間に限って深夜に客に遊興をさせたような場合

エ 1晩だけに限って行われる単発の催し

オ 繰り返し開催される催しであっても、6ヶ月以上に1回の割合で、1回につき1晩のみ開催される催し

 

ウは、例えば、サッカーのワールドカップが日本時間の深夜に放映される場合に、バーでモニターに放映を映して、お客さんに応援をさせたとしても、営業の継続性がないので特定遊興飲食店営業にあたらないということになります。

オは、例えば、夏フェスで1晩に限り、深夜帯にもイベントを行ったとしても、営業の継続性がないので、特定遊興飲食店営業にあたらないということになります。

では、夏フェスで2晩以上連続で深夜帯にもイベントを行う場合はどうなるのでしょうか。この場合は、警察庁の考えでは営業の継続性があるとしています。

もっとも、警察庁は、夏フェスのようなものについては、飲食スペースと遊興スペースがわかれている場合が多いので、後述するようにそもそも特定遊興飲食店営業の「設備を設けて」にあたらないため、特定遊興飲食店営業の許可を取得する必要はないのではないかという見解を示しています。10月6日に開催された内閣府の規制改革会議において、警察庁が同趣旨の発言を行っておりました。

[3]「設備を設けて」

特定遊興飲食店営業の「設備を設けて」とは、「客に遊興と飲食をさせる営業を営むに足りると客観的に認められる物的施設及び備品を設けていること」をいいます。

このため、客に飲食させる設備(「飲食設備」とします)と客に遊興させる設備(「遊興設備」とします)が一つの客室がある場合には、「設備を設けて」に該当することになるでしょう。

では、飲食設備のみの客室(「甲室」とします)がある飲食店営業と、遊興設備のみの客室(「乙室」とします)がある興行場営業が、同一の施設内で営まれている場合は、どうなるのでしょうか。この場合について、警察庁は、次のいずれかに該当するときには、これらの営業は一体のものであるとして、一般的には「設備を設けて」にあたることになるとしています。

1  甲室と乙室の料金を一括して営業者に支払うこととされている場合(食券付きの入場券を販売する場合や、入場料を支払えば飲食物の一部又は全部が無料にな る場合等を含む。)

2  客が甲室で飲食料金の精算をせずに乙室に移動できる場合

3  客が乙室で遊興料金の精算をせずに甲室に移動できる場合

4  乙室にテーブルがあり、客が甲室で提供を受けた飲食物を乙室に持ち込める場合

5  乙室にテーブルがあり、乙室にいる客に対して、甲室から飲食物を運搬して提供する場合

6  甲室にいる客が乙室でのショー、音楽等を鑑賞できる場合

 

なお、上記の4に該当する場合であっても、「例えば映画館、寄席、歌舞伎やクラシック音楽のための劇場等のように、専ら、興行を鑑賞させる目的で客から入場料を徴収することにより営まれる興行場営業であって、興行の鑑賞のための席において客の大半に常態として飲食をさせることを想定していないものについては、当該席が設けられている客室は飲食店営業の営業所とはされていないことが一般的である。その場合、客が席に飲食物を持ち込んで飲食をしたとしても、その席は、一般には飲食をさせる設備には当たらない」としています。

少し回りくどい言い回しになっていますが、趣旨としては次のようなものです。例えば、映画館や劇場に関しては、多くの観客はあくまで客席において演目を楽しむだけで、客席で飲食をする人はほとんどいないし、営業者の側としても、基本的には、飲食をすることを想定していない。そのような客席に、たまたまお客さんが飲食物を持ち込んだとしても、その客席は、飲食設備とはいえないでしょう、ということです。

また、「例えば短期間の催しで、客にショー、音楽等を鑑賞させる場所と客に飲食をさせる場所を明確に区分しているような場合は、一般には、設備を設けて客に遊興と飲食をさせていることには当たらない」としています。これは、前述したとおり、夏フェスが2晩続くような場合を想定しています。

 

以上、特定遊興飲食店営業の定義の解釈案について、整理をしてみました。

改正風営法が成立したときに、規制対象が「ダンス」をさせる営業ではなく「遊興」をさせる営業となったことから、規制の対象がいたずらに広くなることになり、かえって規制強化を招くのではないかという懸念が示されました。これについて、今回の警察庁の解釈案で、オールナイトの映画上映や夏フェスでの深夜帯のイベントなどが除外されることが示され、ある程度、懸念点が解消されてきたように思います。この点については、評価できるのではないでしょうか。

ただし、まだ問題は残されています。「遊興」というのは、非常に広い概念です。罰則のなかった深夜遊興の禁止と異なり、特定遊興飲食店営業に関しては、刑罰をもって無許可営業を規制することになった以上、刑罰に値する「遊興」の範囲については極めて限定的であるべきです。このため、「遊興」の範囲については、さらなる明確化、さらなる限定化がなされることを希望しています。

*1:上記の「客に遊興をさせる」ことにあたる場合の具体例に該当する場合は除く

*2:ただし、「飲食店営業の営業者が当該パーティーの主催者に対して営業所を有償で貸す行為には営利性が認められる。営業者が、深夜に及ぶパーティーのために営業所を有償で貸し、深夜において、酒類を提供するとともに、パーティーの余興に合わせて照明や音響の調整を行うという行為を反復継続しようとする場合は、主催者は特定遊興飲食店営業の許可を受ける必要はないが、当該営業者は当該許可を受ける必要がある。」とされています