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COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

TTNG、Myletsが香港公演で身体拘束された事件について

久々のブログ更新になります。

TTNGらの香港での身体拘束

UKのポストロックバンTTNGとUSのユニットMyletsのメンバーが、今年(2017年)5月18日に不法就労の容疑で身体を拘束されたというニュースが入ってきました。香港公演の会場であるライブハウスHidden Agendaに警察のガサ入れが入ったことにより、同会場で公演を行っていたTTNGらも身体を拘束された模様です。

TTNGらは今年4月に日本でも公演を行ってくれたばかり。
私は残念ながら今年の日本公演には行けなかったのですが、昨年(2016年)10月のリキッドルームでの公演*1では、彼らの緻密に織り込まれたサウンドに魅了されました。TTNGの最新作『DISAPPOINTMENT ISLAND』は最近のお気に入りの1枚でもあり良く聴いています*2

ttng.band


TTNG - "Whatever, Whenever" A Fistful of Vinyl sessions (KXLU)

Hidden Agendaが適法なライセンスをとれない事情

事件の経緯や背景については、下記の記事が非常に詳細に伝えてくれています。

qetic.jp

私は、香港のライブハウス事情については良く知らないのですが、上記の記事によると、Hidden Agendaが今回摘発された背景には、次のような状況があるようです。

  • ①ライブハウスを営業できる商業地域では、賃料の高騰などにより300名程度のキャパのライブハウスの営業が成り立たない。
  • ②比較的賃料の安い工業地域では音楽の興行が認められないため、ライブハウスをそもそも営業できない。

上記の①は経済的な側面から見た課題ですが、ライブハウスは通常、平日は夜に1回公演、土日はできても昼夜の2回公演だと考えても、お店としての稼働時間は1日3、4時間に限られてしまい、この中でチケット代、飲食代についていくら売上が立ったとしても、規模が大きいライブハウスやホールに比べたら、その売上には限界があります。そういうライブハウスにとっては、固定費として毎月かかる物件の賃料は非常に重く、上記の記事に書かれているように商業地域の賃料が高すぎる場合には現実的に経営を行うのは困難でしょう*3

このような状況の中で、Hidden Agendaは、何とか300名程度のキャパのライブハウスの営業を保つために商業地域での営業が無理であると判断し、工業地域での営業を選択して、香港当局などから目をつけられながらも、営業を続けてきたようです。賃料が高いと経営が成り立たないようなライブハウスなら営業しなければいいではないかという意見もあるでしょう*4。しかし、なかなかマスにはアピールしにくいけれど、魅力的な音楽がたくさん存在することを知っている自分としては、いろいろな音楽が鳴らされる場所としてのライブハウスはできる限り安定的かつ永続的に営業を続けて行ってほしいと思っています。Hidden Agendaは日本のライブハウスと同じような役割を果たしているはずで、きっと香港の音楽ファンも自分と同じような気持ちを抱いているのではないでしょうか。

Hidden Agendaが営業許可を得られない場所で営業しているのが悪いのだから仕方ないではないかと思考停止してしまうのは簡単です。ここで思考停止してしまわずに、どうすれば、Hidden Agendaのような場所を存在させていくことができるのかを考えていきたいと自分は思います。

また、上記の記事によれば、Hidden Agendaは、適法なライセンスを取得せずに営業している影響もあり、海外アーティスト招聘のためのビザ取得が困難な事情があるようです。TTNGらの招聘にあたって、どのようなビザ申請が行われていたのかどうかについては不明ですが、もしも、上記のような事情があるのではあれば不幸なことです。適法な営業を行えないというグレーな状態が、さらに別のグレーな状態に連鎖していくという構造は、旧風営法のダンス営業規制が抱えていた問題と共通する部分があるように思います。

ちなみに、工業地域で音楽の興行を行うのが難しいというのは、日本でも同様です。日本では都市計画法において、用途地域というのが定められており、その地域内では一定用途以外の建築物の建築を禁じています。例えば、劇場、映画館、演芸場、観覧場などについて、工業地域、工業専用地域で建築することはできません(準工業地域はOK)*5

用途地域を定めることにより、適正な土地利用を図り、市街地の健全な発展と環境保全を図ることは、日本の都市計画をデザインしていくうえで大切なことではあると思います。

しかしながら、用途地域に関しては、実際の街の実情に見合わない状況にあるところもあるという問題があります。都市計画自体は、そのマスタープランが各地域で数年ごとに見直されてはいますが、必ずしもそれがうまく実情をとらえているといえるかどうかは疑問です*6。ルールはルールだからと思考停止することなく、そのような問題点について、どう折り合いをつけていくのかについて、今後も試行錯誤して行きたいと思います。

もちろん、用途地域の見直しのような規模の大きい話は、そう簡単には行きません。個々のライブハウスなどが個別に取り組める問題ではないと思います。もし、日本でこのような問題について何かしらの形で取り組んで行くのであれば、共通した問題意識を持つ人たちが連携して、情報を共有しながら進めていく必要があります。それこそ自分はキャパが300名以下のライブハウスができるだけ日本各地に数多く存在していて欲しいと思っていますので、どうやったらそういう仕組みが作れるのか、個人的には頭を悩ませているところです。協力してくださる方がいらっしゃったら、是非お声掛けください。

TTNGらのクラウドファンディング

TTNGらは、今回の件ではすでに釈放され、それぞれ帰国しています*7

しかしながら、彼らは6月に改めて香港当局の取調べを受ける必要があり、香港に渡航しなければならないようです。この渡航費を調達するために、2017年5月14日現在、クラウドファンディングを実施中です。すでに目標金額は突破していますが、彼らの今後の活動を支援するためにも彼らの音楽が気に入った方は参加していただければと思います。自分も彼らの音楽を楽しませてもらっているファンの1人として参加してみました。今回の件が彼らの今後の活動の障壁とならないことを願います。

www.gofundme.com

海外バンドの招聘に関して

日本でも、海外バンドの招聘を行うにあたって、興行ビザの申請は大きなハードルのひとつです。アンダーグラウンドなシーンで個人で海外バンドの招聘を行っている企画者の方たちの努力には非常に頭が下がる思いです。

そんな企画者の方たちをサポートするために、LITEの武田さんやTHIS TIME RECORDSが、つい最近、興行ビザの申請の代行を行うサポートチーム「EVIC」を作られたそうです。企画者の方たちにとってすごく頼りになる存在なのではないでしょうか。LITEの武田さんは、これまでも、自らバンドの海外ツアーのために助成金を獲得したり、他のバンドの海外ツアーの助成金獲得のサポートもされています。自ら実践者としてボトルネックとなる部分をひとつずつ解決していく姿はとても素敵です。こういった取り組みが広がっていくのは本当に素晴らしいことだと思います。

evic-visa.com

自分も日本のライブハウスシーンがより幅広く面白いものになっていくように、自分ができることを見つけて取り組んでいきたいですね。

*1:LITEの企画『SPECTRUM vol.8』。LITEの他にTTNG、Mylets、skillkillsという最高のメンツでした。

*2:このエントリーも『DISAPPOINTMENT ISLAND』を聴きながら書いています。

*3:改正風営法の特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域の議論の際にも、警察の方などからは、「エリアが指定されているのだから、その中に出店すればいいではないか」ということが言われました。しかし、営業所設置許容地域があまりにも限定されていると、その地域内の賃料は上がりますし、現実的に営業を行える物件の数も少なくなるため、特にキャパが小さく利益率が低い店舗については出店ができなくなってしまうという状況があります。

*4:ライブハウスは、防音や音響の面などでもコストを掛けなければならず、賃料以外でも相当なコストが掛かります。営業している方たちは相当なリスクをとって営業していると思います。

*5:用途地域の分類については、以前のエントリーでも触れています。こちらをご覧ください。

*6:例えば、商業地域と住居地域が入れ子のような状態で指定されている地域などがあるなど

*7:TTNGはUK、MyletsはUS