COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

特定遊興飲食店の無許可営業による摘発について

1月28日午前2時すぎに渋谷のビルで東京都公安委員会の許可を得ずに店内にDJブースや踊り場を設置し酒食を提供する特定遊興飲食店を営んだ疑いで、老舗クラブの経営者と従業員が逮捕されました。

特定遊興飲食店の無許可営業での摘発は、2016年の改正風営法施行後、初めてのことです。

 

これを受けて、クラブとクラブカルチャーを守る会では、下記の声明を出しました。

【今朝の都内クラブ摘発の報道を受けまして】


 このたび、特定遊興飲食店営業の無許可営業で初の逮捕事例が出たとの報を受け、クラブとクラブカルチャーを守る会といたしましても、非常に残念に思っております。(毎日新聞報道 : https://mainichi.jp/articles/20180129/k00/00e/040/220000c

 2016年に施行された改正風営法は、特定遊興飲食店営業という深夜に飲食および遊興を提供する業態を新設しました。当会は、多くの方が安心・安全に楽しめる場所を創造し、ナイトカルチャーを活性化させることをその目的に掲げ、特定遊興飲食店営業の普及やクラブシーンにおけるマナー向上に尽力してきました。このことは、特定遊興飲食店営業を新設することで、夜間市場を開拓し、日本の経済発展を目指す風営法改正の目的にも資するものだと信じています。また、当会は、クラブが特定遊興飲食店営業の許可を取得し、地域社会の一員として、住民の方々と対話の機会を得ながら、営業を行っていくことが非常に大切なことであると考えています。

 一方で、特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域が街の実情に見合わない狭い範囲で指定されてしまっているという現実もあります。このため、店舗の中には、特定遊興飲食店営業の許可を得たくても取得できない店舗も出てきていると聞いています。このような店舗は、特定遊興飲食店営業の許可を取得し、警察の指導を受けながら健全な営業を目指したいと考えているにもかかわらず、それが叶わない状況に置かれております。当会といたしましては、地域住民の方々の理解を得ながら、より広い地域で特定遊興飲食店営業を営むことができる環境が整備されていくことを願っております。

 当会は、これからも多くの方々のご意見を伺いながら、ナイトカルチャー、クラブカルチャーの発展のためにどのようにすべきかを模索し続けていきたいと考えております。

2018年1月29日 クラブとクラブカルチャーを守る会

 

ここからは、個人的な意見を書きたいと思います。

私が風営法改正にあたって特に懸念していたのが、特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域が想定していた以上に狭い範囲に限られてしまったということです。この点が現実化してしまったのが、今回の件であると考えています。

この問題点については、下記の記事でも指摘しておりますので、ご覧ください。

 

colere.hatenablog.com

colere.hatenablog.com

また、以前に私が受けたインタビューでも触れていますので、ご覧いただければと存じます。

www.huffingtonpost.jp

 

今回摘発を受けた老舗クラブは、渋谷区内にはあるものの、特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域からは外れた場所にありました。

もちろん、営業所設置許容地域内にないなら営業しなければいいではないかというのもひとつの意見だとは思います。

また、今回の一部の報道では、摘発のあった店舗について、騒音問題などから近隣の町会が渋谷署に同店の取り締まりを求める嘆願書が出ていたとされています。実際に近隣の住民が店舗の騒音に悩まされていたということであれば、非常に残念なことです。静かに寝たいと考えている方たちのことも尊重したうえで、自分たちが楽しむ環境を創るということが大切なのではないでしょうか。

一方で、長年営業してきた店舗には、その場所で営業すること自体が店の価値となっていることも事実だと思います。そして、摘発のあった店舗が営業所設置許容地域内にあり、特定遊興飲食店営業の許可を取得できていれば、より積極的に警察や地域住民との対話の機会を得られることもでき、騒音問題などにも対応できていたのではないかとも考えてしまいます。

 特定遊興飲食店営業という新たな営業形態を認めた以上は、できる限り、許可を取得したいと考える店舗が許可を取得できる状況を作った方が、店舗のアンダーグラウンド化を防ぐことができるのではないでしょうか。特定遊興飲食店営業の許可取得のハードルを下げて、多くの店舗が適法に営業できるようにすることにより、警察や地域住民との対話の機会を設けることができます。こうすることで、店舗も地域住民に配慮し、問題点を改善しながら、安心して営業していき、地域社会の一員として溶け込んでいくことができるのではないかと思っています。

今回の件で浮き彫りになったように、改正風営法については、まだまだ課題点がいくつもあると思います。これらについて、多くの立場の人の意見を伺いながら、より良い方向に向かえるように動いていきたいと、個人的には考えています。