COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

風営法の改正案でクラブ営業の位置づけはどうなるの?

【この記事のポイント】

(1)風営法の改正により、ナイトクラブ営業(3号営業)やダンスホールの営業(4号営業)は「風俗営業」ではなくなる。

(2)客に飲食をさせる営業で、客席の照度が10ルクス以下のものは、現行法と同様、低照度飲食店営業(5号営業)として「風俗営業」にあたる。

(3)客に飲食(酒類提供あり)、遊興(ダンスを含む)させる営業が「特定遊興飲食店営業」としてカテゴリーされ、深夜での営業も可能になる。

 

2015年3月3日に閣議決定された風営法改正案でのクラブ営業の位置づけ

前回のエントリーで現在の風営法改正に向けた動きのおおまかな流れについて触れました。

今回は、2015年3月3日に、再び閣議決定がなされた風営法の改正案(以下、「本改正案」といいます)によって、クラブ営業の位置づけがどのようになるのかについて、検討していきたいと思います。

設備を設けて客にダンスをさせる営業の規制の見直し

まず、本改正案は、設備を設けて客にダンスをさせる営業について、規制を見直すことにしており、ナイトクラブの営業を規制していた現行風営法2条1項3号と、ダンスホールの営業を規制していた同4号が削除されます。

4号営業は風営法の規制から除外

ここで前回のエントリーでは触れなかった4号営業について、まず触れておきましょう。

4号営業は、「設備を設けて客にダンスをさせる営業」(風営法2条1項4号)をいい、風営法2条1項4号に定められているので、通称4号営業といわれています。

3号営業との違いは、飲食を伴わないという点です。4号営業は、映画『Shall we ダンス?』に出てくる社交ダンスなどが行われるダンスホールを思い浮かべていただければ良いと思います。ああいうダンスホールも「風俗営業」にカテゴリーされているんだと思うと何となく不思議な感じがする方もいらっしゃるかもしれませんね。*1

本改正案では、現行風営法2条1項4号を削除しており、4号営業についての規制を撤廃しています。すなわち、「設備を設けて客にダンスをさせる営業」については、風営法のもとで課されていた規制がなくなります。

では、3号営業はどうなるの?

本改正案では、4号営業は晴れて風営法の規制対象から外れることになるわけですが、それでは、クラブが対象とされていた3号営業については、どうなるのでしょうか。

これについては、下記の表*2を見ながら検討していくことにしましょう。

照度営業時間遊興飲食酒類提供業種名風営法に基づく許可・届出備考
10ルクス以下 午前6時から翌午前0時まで ①低照度飲食店 許可制 風俗営業
10ルクス超 午前6時から翌午前0時まで ②飲食店 不要 風俗営業ではない
深夜(午前0時~午前6時)にも営業 ③特定遊興飲食店 許可制
× ④深夜飲食店 不要
△? ⑤深夜酒類提供飲食店 届出制

①低照度飲食店営業(現行風営法2条1項5号)

まず、客室を10ルクス以下の明るさにして、お客さんに飲食をさせる営業にあたる場合は、低照度飲食店営業(5号営業)*3としての規制を受けます。

これは、現行風営法2条1項5号でもともと定められていた規制で、風俗営業の1つの類型にあたります。現行風営法の3号営業については、5号営業の適用対象から除かれているのですが、本改正案では3号営業というカテゴリーがなくなるため、5号営業の要件を満たせば、低照度飲食店営業としての規制を受けることになるのです。

低照度飲食店営業にあたる場合は、従来の風俗営業と同様、深夜の営業を行うことはできません。*4このため、クラブが低照度飲食店営業のカテゴリーに入る場合には、現在と同様、深夜営業を行うことはできないのです。*5

 ②飲食店営業

次に、客室の照度を10ルクスを超える形で、午前6時から翌午前0時まで営業する場合には、単なる飲食店として、風営法の規制は受けず、風営法に基づく許可取得や届出の必要はありません。*6

もともと、設備を設けて、客にダンスと飲食を提供する場合は、3号営業にあたるため、風営法の許可を取得する必要があったわけですから、本改正案が成立して、許可の取得が不要になるということは、多くの方にとってメリットになるということです。終電前に終わるようなクラブイベントであれば、風営法の許可を取得しなくても適法になるというわけですね。

③特定遊興飲食店営業

では、本改正案で新設される特定遊興飲食店営業についてご説明しましょう。

特定遊興飲食店営業は、客室を10ルクス以上にして、設備を設けてお客さんに遊興*7させ、飲食(酒類提供あり)を提供する営業形態です。

特定遊興飲食店営業を営むためには、都道府県公安委員会の許可を受ける必要があります。ただし、特定遊興飲食店営業は、風俗営業にはあたりません。

この特定遊興飲食店営業は、お客さんが深夜にダンスをしながら、お酒も飲めるということを可能にする営業形態なので、法改正後は、おそらく多くのクラブがこの形態での営業を行うのではないかと予想されます。

もっとも、特定遊興飲食店営業の許可の要件などについては、政令、公安委員会規則、条例等に委ねられる部分が多く、まだまだ未知数です。また、立地要件、面積要件等の基準がどのようになるのかについても議論がなされているところです。ここは、多くの方の意見を伺いながら、今後のロビー活動の中でより良い改正が実現するように努力していきたい部分の1つです。何が問題になるのかについては、今後、本ブログでも触れていきたいと思います。

④深夜飲食店営業

深夜に飲食店営業を営む場合で、酒類を提供しない場合には、深夜飲食店営業というカテゴリーになります。これについては、現行風営法上も定められているカテゴリーですが、風営法上の許可取得や届出は特に必要はありません。

ただし、営業所の設備や構造を国家公安委員会の定める技術上の基準に適合するようにしなければならないとされています。

なお、現行風営法では、深夜飲食店営業では、客に遊興をさせてはいけないという規定があったのですが、本改正案では削除されています。

 ⑤深夜酒類提供飲食店営業

飲食店が深夜に酒類を提供して営業する場合には、このカテゴリーになります。このカテゴリーは現行風営法でも定められており、深夜酒類提供飲食店営業を営むためには、風営法上、届出が必要とされています。本改正案でもこの点は同様です。

現行風営法上では、深夜酒類提供飲食店営業でも深夜飲食店営業同様、客に遊興させることは禁止されています。本改正案のもとでは、どうなるのかについては、正直なところ、まだよくわかりません。深夜酒類提供飲食店営業でも遊興が許されるのだということになると、特定遊興飲食店営業との違いが良くわからなくなってきてしまうからです。この点について、どう扱われるのかについては、検討を続け、随時、ご報告できればと考えております。

クラブ営業は結局どうなるの?

以上、各カテゴリーについて、見てきましたが、クラブ営業がどのカテゴリーに入って行くのかは、各店舗で変わってくる可能性がありそうなので、現段階では、上記のどれに入るのかを確定的に述べることはできません。

このように、まだまだ風営法改正については、未知数の部分が多くあり、検討課題は山積みです。これを、是非、多くの方に知っていただき、問題意識を共有できればと考えております。細々とですが、このブログの中で紹介していければと思っておりますので、皆様、是非、今後とも宜しくお願いいたします。 

 

 

 

*1:ちなみに多くの方が風俗営業というと、いわゆるソープランドとかヘルスとかラブホテルとかを思い浮かべるかもしれませんが、これらは性風俗関連特殊営業といい、風俗営業とは別物とされています。機会があれば、このあたりについてもいずれまとめてみたいと思います。

*2:この表では、④、⑤について、照度を10ルクス超と分類していますが、現行法の基準では④、⑤は20ルクスを超える照度が必要とされています。

*3:風営法では2条1項2号に規定

*4:ただし、条例によって深夜の時間帯まで営業時間を延長することができる旨を定めることは可能。

*5:クラブでは演出上の効果の観点から、客室の照度が10ルクス以下になることがあると思いますが、このような場合にすべて低照度飲食店営業としての許可が必要ということになれば、風営法が改正されても、結局のところ、深夜営業が認められないことになってしまいます。このため、照度の計測方法や演出上、照度が10ルクス以下になる場合の取り扱いなどについて、議論がなされているところです。

*6:食品衛生法の許可やその他の法令にもとづく制限などはありますが、それはまた別の機会に。

*7:「遊興」とは何かということについては、大きな問題なので、別のエントリーで改めて検討したいと思います。