COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

【警察庁パブコメ】特定遊興飲食店営業の立地規制はどうなるの?|改正風営法

【この記事のポイント】 

(1)警察庁のパブコメで示された政令案は、特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域を、これまでの警察庁の見解よりも、だいぶ広げている。

(2)特定遊興飲食店営業についての保全対象施設に関して、「特にその周辺の深夜における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものに限る」という限定がついている。

警察庁のパブコメ:2015年9月18日から同年10月17日まで

先日、改正された風営法について、来年6月の施行に向けて、関連する政令、内閣府令、国家公安委員会規則などを定めていく必要があります。これを受けて、警察庁は、政令などを定めるために、2015年9月18日から同年10月17日まで、パブリックコメント(略してパブコメ)を行うことになりました。パブコメは、政令などを定めるにあたって、広く国民の意見を問うもので、国民は誰でもパブコメを送ることができます*1。本ブログではパブコメの参考にしていただくために、パブコメで示された政令などの案について、随時ポイントを整理して行きたいと思います。

 

深夜に営業することを考えているナイトクラブやライブハウスなどは、特定遊興飲食店営業という新設されたカテゴリーの営業許可をとることを検討されると思いますので、今回の整理は「特定遊興飲食店営業」に関する部分を中心に行おうと思いますので、その点をご承知おきください。

特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域の指定に関する条例の基準

特定遊興飲食店営業の営業所を設けることができる地域を「営業所設置許容地域」といいますが、これがどのような形になるのかを見て行きましょう。

まず、改正風営法は、4条2項2号(特定遊興飲食店営業については31条の23で準用)において、「政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき」には、特定遊興飲食店を設置してはいけないと定めています。

改正風営法4条2項2号(31条の23による読替後のもの)

2 公安委員会は、第32条の22の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。
二 営業所が、良好な風俗環境の保全に障害を及ぼすことがないため特にその設置が許容されるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にないとき(当該営業所が、旅館業法(昭和23年法律第138号)第2条第2項に規定するホテル営業又は同条第3項に規定する旅館営業に係る施設内に所在し、かつ、良好な風俗環境の保全に障害を及ぼすことがないため特にその設置が許容されるものとして国家公安委員会規則で定 める基準に適合するもの(次項において「ホテル等内適合営業所 」*2という。)であるときを除く。)。

 

このように、特定遊興飲食店営業の営業所を設置して良い地域は、「政令」で定める基準にしたがって都道府県の「条例」で定められるのですが、この条例の基準となる政令案が今回のパブコメで提示されています。

では、具体的な政令案の中身を見てみましょう。
営業設置許容地域に関する政令案を図にしてみましたので、ご覧ください。

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まず、劇場、映画館、演芸場、観覧場、ナイトクラブなどの用途で用いる建物については、建築基準法(今回の風営法改正と同時に改正)により、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域においてのみ建築できるとされています(なお、ナイトクラブに関しては、改正前は、商業地域と準工業地域のみと制限されていました)。

これに対して、今回の政令案で、特定遊興飲食店を設置できるのは、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域のうちで下記の(1)、(2)のいずれかに該当する地域であることが必要とされています。

(1)風俗営業等密集地域
(2)深夜において1km²につきおおむね100人以下の 割合で人が居住する地域

(1)の風俗営業等密集地域は、店舗が多数集合しており、風俗営業、遊興飲食店営業、深夜酒類提供飲食店営業、興行場営業の営業所が1km²につきおおむね300箇所以上の割合で設置されている地域とされています。

この(1)については、現行風営法の営業延長許容地域についての政令の基準に準じたものといえ、ある程度の規模の繁華街で、深夜に人が多く行き交う街を想定しています。こういう地域であれば、深夜に人が多く、深夜営業の特定遊興飲食店が設置されて、少し騒がしくなっても、あまり近隣への迷惑が生じないという発想から、指定されているといえるでしょう。

これに対して、(2)は、逆の発想で、深夜にそもそも住民があまりいない地域であるため、近隣への迷惑が生じにくいという考えから指定されているといえます。こちらは、今までの風営法では見られなかった基準です。

さらに、(1)か(2)の地域にあたる場合であっても、下記のaからdにあたる地域の場合は、営業所を設置することはできません。

a:住居集合地域
b:近隣商業地域、商業地域、準工業地域のうち、住居が相当数集合しているため、深夜における風俗環境の保全について特に配慮が必要な地域
c:a、bに隣接する地域(風俗営業等密集地域内の地域であって、幹線道路の各側端から外側おおむね50mを限度とする区域内の地域を除く)
d:保全対象施設の周辺地域

 

まず、aにより住居集合地域*3では、特定遊興飲食店を営業できません。

建築基準法では準住居地域でもナイトクラブなどを設置できるとされていましたが、政令案のこの要件により、準住居地域ではナイトクラブなどを設置できないということになります。住宅集合地域においては夜間に寝ている住民も多いので、特定遊興飲食店営業を営むことができないのは、やむを得ないと思います。

次に、bですが、こちらについては、「住居が相当数集合している」というのをどのように判断するのかが、この要件からだけでは判断できないので、どのように具体化するかが問題になると思います。

さらに、cですが、「隣接する地域」をどうやって判断するかが課題になりそうです。もっとも、(1)の地域のうちで、幹線道路の各側端から外側おおむね50mを限度とする区域内の地域は除くと明示されているため、例えば六本木のような幹線道路から少し入っただけで住居集合地域に差し掛かってしまうような入り組んだ地域の場合でも、特定遊興飲食店営業を営むことが可能になります。

加えて、dですが、保全対象施設は、学校や病院など周辺における良好は風俗環境を保全する必要がある施設です*4。具体的にどのような施設が保全対象施設にあたるかは、都道府県の条例で定められることになります。

dの保全対象施設の周辺地域というのは、保全対象施設の敷地の周囲のおおむね100mを限度とする区域内の地域に限るとされています。

特定遊興飲食店営業に関する「保全対象施設」に関しては、「特にその周辺の深夜における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものに限る」とされています。「深夜における」という限定が付けられていることからすれば、深夜に人がいない学校や入院設備のない病院といったものは、保全対象施設から除外されるという理解になるのではないでしょうか。

このように、当初、国会答弁等では、特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域について、現行風営法の営業延長許容地域を参考にするとしていた警察庁の見解からすると、だいぶ許可を取得できる地域が広がったという印象です。営業所設置許容地域を狭くすることにより、健全な営業を営みたいと考える店舗が許可を取得できないという懸念点が、だいぶ解消されたことで、積極的に評価できるといえそうです。

以上に見てきたとおり、上記の図のうちの一番下の「◯」がついている緑色の部分が特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域になります。

その他の要件については、また改めて検討してみたいと思います。

*1:パブコメは、こちらこちらから送付可能です

*2:これについては別のエントリーで検討したいと思っています。

*3:第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域および準住居地域をいいます。

*4:現行風営法では、「保護対象施設」と呼ばれていたものが「保全対象施設」という名称に変わっています。