COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

「記者の目 春画ブームの今後」(毎日新聞)

2016年1月22日付の毎日新聞の記事

2016年1月22日付の毎日新聞の野宮珠里記者(東京情報調査部)による「記者の目 春画ブームの今後」という記事に、私のコメントを載せていただいております。

春画展」(永青文庫

昨年、永青文庫(東京都文京区)において開催された「春画展」は連日盛況で、入場者数は延べ21万人に達するほどだったとのことです。私が「春画展」を訪れたのは、平日の昼間でしたが、館内は多くの人で溢れていました。訪れた時間のせいもあったかと思いますが、来場者はわりと年配の方が多め。でも、20代と思われる方もかなり居たので幅広い年齢層に受け入れられた展覧会だったようです。

このような「春画展」ですが、国内での展覧会は初めて。「春画」に関しては、これまでもわいせつ物にあたる可能性があるということから、展示を行うことはタブー視されてきました。

ところが、2013年から2014年に開催された大英博物館(ロンドン)での春画の展覧会の大成功を受けて、今回の日本国内における「春画展」につながることになりました。記事にも記載されているように日本国内での「春画展」の開催には紆余曲折があったものの、今回の開催、そして、成功は、今後の春画の展覧会の開催のモデルケースとして重要なものとなったのではないかと思います。

わいせつ物にあたるとして摘発などがされるかどうかに関しては、警察の見解、判断に頼る部分が大きいのですが、警察の見解、判断も時代の変化と共に移ろって行きます。どのように移ろって行くのかについては、特に警察から正式な見解が発表されることはほとんどないため、各事例の集積などから推察していくほかありません。このような状況が、多くの自主規制を生む原因のひとつとなっているといえるでしょう。今回の「春画展」は、自主規制を乗り越えて開催し、しかも、集客的にも成功を収めたという点で、エポックメイキングな展覧会となったのではないでしょうか。

警察がわいせつ物かどうかを判断するにあたっては、世論や、世間における受容の有無といったものも考慮要素のひとつとして参考にしているものと考えられます。「春画展」が老若男女に受け入れられたということは、ひとつの実績として、警察の判断にも影響を与える可能性があるでしょうし、過度な自主規制が行われないようになるきっかけとしても重要な意味を持つと思います。今後、巡回展*1も成功するといいですね。

また、今回の「春画展」では、18歳未満の入場禁止という措置を取り、ゾーニングを施していました。大英博物館での春画の展覧会の際には、16歳未満の入場者には保謹者同伴を求めるという形のゾーニングだったようですので、それよりも厳しいゾーニングをかけています。ゾーニング大英博物館のときよりも厳しくしているのは、これまでタブー視されてきた国内での春画の展示を実施するための現実的な落としどころのひとつだったのではないかと思います。

もちろん、春画がわいせつ物にあたるのかどうかについては、議論があるところですし、議論を行うことは非常に大切なことです。

しかしながら、わいせつ物かどうか議論がある存在を展示したい場合に、現実的にどうやって落としどころを見つけるのかということを考えた場合には、いかに、見たくない人や見ることで悪影響受ける可能性があるとされている人が見なくて済む状況を作ってあげるのか、ということも大切なポイントとなると考えています。

そのほかにも「春画展」では、ポスターや図録(かなり分厚く、紙質やデザインにもこだわりまくった所有欲を刺激する逸品でした)などが非常に洗練されており、このようなところにも警察や世間から「わいせつ物」だという指摘を受けないようにするための工夫がされていたのではないかと思います。

風営法のロビー活動の際にも考えていることですが、価値観の対立、利害の対立がある場合に、現実的にどのような解決を図ることができるのか、それを見出していくことは、価値観があまりにも多様化してしまった現代において、ますます重要になっていると思います。お互いに自分の価値観を押し付けあっても、理想論のみで押し進めても、こう着状態が生まれるだけで、何の解決にもならないことが多いです。そのようなときにどうするのか。今回の「春画展」についても、現実的な折り合いをどうやってつけるのかということへのヒントが提示されていると感じました。

*1:今決まっているところだと2016年2月6日から同年4月10日まで京都の細美美術館で開催されるそうです