COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

クラブの営業地域の制限って何?(2)

【この記事のポイント】

(1)風営法のもとでは、住居集合地域でのクラブの営業は制限されている。

(2)住居集合地域以外の地域でも、保護対象施設の近くでは、クラブを営業することはできない。

 

風営法4条2項2号

前回のエントリーでは、都市計画法建築基準法について、見てきました。 今回は、風営法に基づく営業地域の制限について、見て行きたいと思います。

風営法4条2項2号は次のように定めています。

(許可の基準)

第四条

2  公安委員会は、前条第一項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。

二  営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき。

 以前にも触れたとおり、風俗営業を営むにあたっては、都道府県の公安委員会から許可を受ける必要があります。風営法4条2項では、公安委員会に対して、4条2項各号のどれか1つにでも該当するような場合には、風俗営業の許可を出してはいけませんと定めているのです。このため、クラブを出したいと思っている物件が4条2項2号の地域内にある場合には、3号営業の許可を受けることができず、クラブを営業することはできないことになります。

政令と条例

この風営法4条2項2号の中に書かれている「政令」が、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令」(以下、「風営法施行令」といいます)です。

さらに、「都道府県の条例」のうち、東京都が定めるものが「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(以下、「東京都風営法施行条例」といいます)です。

「政令」というのは、行政権の主体である内閣が制定するルールになります。「条例」は、地方公共団体が法令*1の範囲内で制定するルールです。

ここで簡単に確認しておくと「法律」は、国会が制定するルールです。「法律」と「政令」、「条例」の関係については、会社で言えば上司と部下の関係にあると思っていただくとイメージしやすいと思います。「法律」が本社の経営陣、「政令」が本社にいる部下、「条例」が地方の各支社という感じでしょうか。

風営法4条2項2号について見てみると、上司である風営法が本社の部下である風営法施行令に対して、風俗営業の地域制限について、「君がおおまかな基準を定めてくれたまえ」と指示しているのです。さらに、風営法は、「都道府県でいろいろと事情も違うだろうから、風俗営業が制限される具体的な地域は、各都道府県の条例で決めなさいね」と各支社に対して指示しています。ただし、「条例が定める地域は、政令が決めたおおまかな基準にしたがってくれないと困るよ」とも言っています。

これを見ればわかるとおり、風営法のもとでの営業地域の制限に関しては、風営法施行令や各地の条例を見なければ、具体的にどう定められているのかがわからないのです。

風営法施行令6条

では、風営法施行令6条の規定を見てみましょう。

同条が、風営法4条2項2号の「政令で定める基準」を定めています。

風俗営業の許可に係る営業制限地域の指定に関する条例の基準)

第六条  法第四条第二項第二号 の政令で定める基準は、次のとおりとする。

一  風俗営業の営業所の設置を制限する地域(以下「制限地域」という。)の指定は、次に掲げる地域内の地域について行うこと。

イ 住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域(以下「住居集合地域」という。)

ロ その他の地域のうち、学校その他の施設で学生等のその利用者の構成その他のその特性にかんがみ特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものの周辺の地域

二  前号ロに掲げる地域内の地域につき制限地域の指定を行う場合には、当該施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲おおむね百メートルの区域を限度とし、その区域内の地域につき指定を行うこと。

三  前二号の規定による制限地域の指定は、風俗営業の種類及び営業の態様、地域の特性、第一号ロに規定する施設の特性、既設の風俗営業の営業所の数その他の事情に応じて、良好な風俗環境を保全するため必要な最小限度のものであること。

東京都風営法施行条例3条 

次に、東京都風営法施行条例3条の規定を見てみましょう。

(風俗営業の営業所の設置を特に制限する地域)

第三条 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号。以下「法」という。)第四条第二項第二号の条例で定める地域は、次の地域とする。

一 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域(以下「住居集合地域」という。)。ただし、法第二条第一項第七号及び第八号の営業に係る営業所については、近隣商業地域及び商業地域に近接する第二種住居地域及び準住居地域で東京都公安委員会規則(以下「規則」という。)で定めるものを除く。

二 学校、図書館、児童福祉施設、病院及び診療所の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲百メートル以内の地域。ただし、近隣商業地域及び商業地域のうち、規則で定める地域に該当する部分を除く。

2 前項の規定は、列車等常態として移動する施設において営まれる風俗営業に係る営業所については、適用しない。

住居集合地域での営業はできない

風営法施行令6条1号イは、「住居集合地域」では風俗営業の営業所を設置してはいけないよと定めています。

ここでいう東京都における「住居集合地域」を具体的に定めているのが、東京都風営法施行条例3条1項1号です。

東京都風営法施行条例3条1項1号は、「第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域(以下「住居集合地域」という。)」と 規定しています。すなわち、「住居集合地域」というのは、「第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域」のことを言うんですよと定めているのです。

ここで、前回のエントリーをご覧いただいた方はお気づきだと思いますが、「第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域」というのは、都市計画法で定めている住居系の地域のことを指しているのです。

このように、風営法のもとでも、クラブについては、住居系の地域では営業できないと定めているのです。 これは、住居系の地域では、前回のエントリーで触れたとおり、建築基準法でもクラブの営業はできないとされていましたので、この部分については、同じなんだなと思っていただければ良いと思います。

 保護対象施設

さらに、風営法施行令6条1号ロでは、住居集合地域以外の地域でも、「学校その他の施設で学生等のその利用者の構成その他のその特性にかんがみ特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものの周辺」では、風俗営業を営むことはできませんよと定めています。 ここでいう「学校その他の施設で学生等のその利用者の構成その他のその特性にかんがみ特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設」のことを、実務上、「保護対象施設」と呼んでいます。

保護対象施設がどういったものなのかを具体的に知るためには、風営法施行令6条1号ロが「都道府県の条例で定めるもの」としていますので、条例を参照しなければいけません。 そこで、先ほどあげた東京都風営法施行条例3条の1項2号を見てみます。

二 学校、図書館、児童福祉施設、病院及び診療所の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲百メートル以内の地域。ただし、近隣商業地域及び商業地域のうち、規則で定める地域に該当する部分を除く。

このように東京都では、学校、図書館、児童福祉施設、病院、診療所を保護対象施設として定め、その周囲100m以内の地域では、原則として風俗営業を行うことはできないと定めているのです。

もっとも、注意しなければいけないのが、同号のただし書の存在です。

ただし、近隣商業地域及び商業地域のうち、規則で定める地域に該当する部分を除く。

上記のように、近隣商業地域、商業地域のうち、規則で定める地域に関しては、例外的に東京都風営法施行条例3条1項2号本文の適用が除外されると定めています。

ここでいう「規則」というのは、具体的には、東京都公安委員会が定めた「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例の施行に関する規則」(以下、「東京都風営法施行条例施行規則」といいます)の2条です。

第2条 条例第3条第1項第2号ただし書の規則で定める地域は、次の各号の区分に従い、当該各号に掲げる区域とする。ただし、当該区域のうち、風俗営業の規制に当たり著しい支障があると東京都公安委員会(以下「公安委員会」という。)が認める区域を除く。

(1) 近隣商業地域

ア 大学、病院(児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)第15条第2項に規定する第一種助産施設を含む。次号において同じ。)及び診療所(8人以上の患者を入院させるための施設を有するものに限る。)の敷地からの距離が50メートル以上の区域

イ 児童福祉施設最低基準第15条第3項に規定する第二種助産施設(以下「第二種助産施設」という。)及びアの診療所以外の診療所の敷地からの距離が20メートル以上の区域

(2) 商業地域

ア 学校(大学を除く。)、図書館及び児童福祉施設(児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条に規定する助産施設を除く。)の敷地からの距離が50メートル以上の区域

イ 大学、病院及び診療所(8人以上の患者を入院させるための施設を有するものに限る。)の敷地からの距離が20メートル以上の区域

ウ 第二種助産施設及びイの診療所以外の診療所の敷地からの距離が10メートル以上の区域

2 前項の規定にかかわらず、近隣商業地域及び商業地域のうち、風俗営業に係る営業所が密集した区域で、特に風俗営業の規制に当たり支障がないと公安委員会が認めて告示する区域は、条例第3条第1項第2号ただし書の規則で定める地域とする。

 だんだんややこしくなってきましたので、ちょっとシンプルに考えてみることにしましょう。

前回のエントリーで触れたとおり、建築基準法では、クラブは、商業地域と準工業地域でしか営業できないと定めていました。クラブを営業するためには、建築基準法の制限もクリアする必要があります。

このため、クラブの営業地域の制限について考えるにあたっては、保護対象施設に関して、商業地域に関するものと、準工業地域に関するものを見ればよいということになりますね。

以下、東京都では保護対象施設からどれくらい離れていればクラブを営業できるのかについて表にしてみたのでご覧ください。

用途地域保護対象施設営業可能区域
商業地域 学校(大学を除く)、図書館、児童福祉施設 50m以上の区域
大学、病院、診療所(ベッド8床以上) 20m以上の区域
第二種助産施設、診療所(ベッド7床以下) 10m以上の区域
準工業地域 上記すべて 100mを超える区域

 

東京都に関しては、もう1つ触れておかないといけません。 それは、先ほど触れた東京都風営法施行条例施行規則の2条2項です。

2 前項の規定にかかわらず、近隣商業地域及び商業地域のうち、風俗営業に係る営業所が密集した区域で、特に風俗営業の規制に当たり支障がないと公安委員会が認めて告示する区域は、条例第3条第1項第2号ただし書の規則で定める地域とする。

ここで「公安委員会が認めて告示する区域」は、以下になります。

中央区銀座4~8丁目

港区新橋2~4丁目

新宿区歌舞伎町1丁目、2丁目9~10、19~46

新宿区新宿3丁目

渋谷区道玄坂1丁目1~18、2丁目1~10

渋谷区桜丘町15~16

この区域内にある商業地域に関しては、保護対象施設からの距離による制限を受けないことになります。

長くなってきましたので、今回のエントリーはここまで。

次回も、なぜ保護対象施設というものがあるのか、保護対象施設からの距離はどうやって計測するかなど、営業地域の制限に関して検討していきたいと思いますので、お付き合いください。

*1:「法令」というのは、法律だけではなく、政令等も含んだ概念であると考えていただければ良いでしょう。