COLERE JOURNAL(コレレジャーナル)

弁護士藤森純が運営するブログです。文化と法律の関わり方について考えていきたいです。

新風営法ではクラブの客室1室の床面積の要件はどうなるの?

【この記事のポイント】

(1)現行風営法のもとでは、3号営業を営むには、客室1室の床面積が66㎡以上あることが必要。

(2)面積要件は、客室1室ごとにクリアする必要がある。

(3)国家公安委員会、警察庁サイドからは、新風営法のもとでは、特定遊興飲食店営業の客室1室の床面積の要件を33㎡以上にするのはどうかという提案が出ているが、どうなるのかはまだわからない。

 

現行風営法の3号営業の客室の床面積の要件

以前のエントリーでも触れたとおり、現行風営法の3号営業では、客室1室の床面積の要件は、66㎡以上であることが必要とされています。

ここで、注意していただきたいのは、風営法が直接、66㎡以上という数字を決めているわけではありません。

では、どこから66㎡という数字が出てくるのでしょうか。

まず、風営法4条2項1号は次のように定めています。

2  公安委員会は、前条第一項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。
一  営業所の構造又は設備(第四項に規定する遊技機を除く。第九条、第十条の二第二項第三号、第十二条及び第三十九条第二項第七号において同じ。)が風俗営業の種別に応じて国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合しないとき。

上記規定によれば、「営業所の構造又は設備が」「国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合しないとき」には、公安委員会は、当該営業所に対して風俗営業の許可を出してはいけないと定めています。

ここでいう「国家公安委員会規則で定める技術上の基準」を定めているのが、国家公安委員会が定める「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則」(略称は風営法施行規則)の8条です。この8条の中の3号営業について定めた部分を見てみましょう。

一 客室の床面積は、一室の床面積を六十六平方メートル以上とし、ダンスをさせるための客室の部分の床面積をおおむねその五分の一以上とすること。
二 客室の内部が当該営業所の外部から容易に見通すことができないものであること。
三 客室の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと。
四 善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと。
五 客室の出入口に施錠の設備を設けないこと。ただし、営業所外に直接通ずる客室の出入口については、この限りでない。
六 第二十九条に定めるところにより計つた営業所内の照度が五ルクス以下とならないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること。
七 第三十一条に定めるところにより計つた騒音又は振動の数値が法第十五条の規定に基づく条例で定める数値に満たないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること。

上記の一の記載のとおり、「客室の床面積は、一室の床面積を六十六平方メートル以上とし、ダンスをさせるための客室の部分の床面積をおおむねその五分の一以上とすること」とされています。*1

風営法施行規則は、国家公安委員会が制定します。国家公安委員会というのは、内閣府の外局に位置する機関で、警察庁を管理しています。

面積要件は客室1室ごとにクリアする必要があります。

上記の面積要件の判断は、客室1室ごとに要件を満たす必要があります。

例えば、お店に敷居で区切られた2つのフロアがあったり、上下階で2つのフロアがあるような場合、フロアごとにそれぞれが面積要件をクリアしている必要があるのです。

これは、VIPルームのような狭い個室が作られるのを防ぐためであると考えられています。警察サイドとしては、個室のような密室の中で犯罪等が行われる可能性があるものと考えており、個室が生まれることを警戒しているものと思われます。

風営法のもとでは、どうなるの?

風営法の改正案では、3号営業がなくなるということは、以前にもお伝えしました。

では、改正案で新たに設けられた特定遊興飲食店営業を行うにあたっての客室1室の床面積の要件はどうなるのでしょうか。深夜営業を行う多くのクラブがこのカテゴリーに入ってくる可能性が高いので、検討してみたいと思います。

風営法の改正案では、特定遊興飲食店営業についても風営法4条2項1号の規定が準用*2されるとしていますので、3号営業同様、客室1室の床面積は、風営法施行規則で定められることになります。

つまり、今回、国会で風営法の改正が成立しても、特定遊興飲食店営業の客室1室の面積の要件が決まるわけではなく、新風営法にもとづいて新たに風営法施行規則で特定遊興飲食店営業の客室の床面積の要件が具体的に定められることになるのです。

前述したとおり、風営法施行規則は、国家公安委員会が定めることになります。

では、国家公安委員会は、特定遊興飲食店営業の客室の床面積の要件について、どれくらいが良いと考えているのでしょうか。

これについての1つの答えが2015年3月25日に行われた内閣委員会での秋元司衆議院議員による一般質問に対する警察庁辻生活安全局長の回答の中にあります。

辻生活安全局長は、特定遊興飲食店営業の客室1室の床面積について、33㎡以上という要件にするのはどうかという考えを述べています。

警察サイドがこのように面積要件を66㎡から引き下げてきたのは、これまで各関係者がロビー活動において、66㎡という面積要件が厳しすぎると訴え続けてきたことの成果によるものといえると思います。

もっとも、33㎡という数字が妥当なのかについては、議論のあるところではあります。

なお、2014年にダンス文化推進議員連盟議員立法として提出しようとしていた風営法改正案の中では、客室1室の床面積を9.5㎡以上にするという面積要件を大幅に緩和する案が出ました。

ところが、これでは狭すぎるという自民党の保守派の議員の意見が強かったために、ダンス文化推進議員連盟の案は、自民党の内閣部会での賛同が得られませんでした。*3これを受けて、議員立法ではなく、内閣が法案を提出することになり、警察サイドが考案した現在の風営法改正案が国会に提出されることになったという経緯があります。

風営法改正ですべてが終わるわけではないのです。

ここまで読まれてきて、お気づきだと思いますが、実は風営法の改正案が国会で可決され、新風営法が成立したとしても、そこで、終わりではないということです。新風営法をもとにして、具体的な基準などが政令、公安委員会規則、条例などで決められることになるため、これらをどのように定めていくのかについても、きちんと議論をしていかないといけないのです。

今回は、客室の面積要件について見てきました。今後、他の要件についても検討していきたいと思います。

 

*1:上記の二以下の部分については別のエントリーで適宜触れてみたいと思います。

*2:特定遊興飲食店営業にも風営法4条2項1号の規定があてはまるという意味合いです。

*3:たまたまこのときの自民党の内閣部会を傍聴させていただく機会を得たのですが、厳しい反対意見がたくさん出て、賛同が得られないことがわかったときには、正直かなりショックを受けて落ち込みました。